鍋の表面が、ミルクティーのような淡いベージュに染まっていきます。生のピーナッツをすりつぶして煮込んだスープは、ナッツの甘い香りと牛肉のだしが重なり、湯気だけでも腹が減ってくる匂いです。皿に注いだら、その上に揚げたてのじゃがいもをどさっとのせ、刻んだパセリを散らします。ボリビアで日曜の昼の一皿目としてよく出されるのが、このソパ・デ・マニ(sopa de maní)です。スペイン語で「maní」はピーナッツのこと。見た目は素朴ですが、日本の台所にある道具で、生のピーナッツから本格的に作れます。
ボリビアの日曜の昼は、ピーナッツのスープから始まる

ソパ・デ・マニは、日曜の昼食の一皿目として出されることが多いスープです。まずこのスープを味わい、そのあとに二皿目の料理が続く、という食べ方が紹介されています。コチャバンバの食堂の昼定食を紹介したボリビア紙ロス・ティエンポスの記事でも、多くの定食に入る名物のスープとして、ピカンテ・デ・ポジョ(鶏の辛い煮込み)と並んで名前が挙がっています。家の台所でも食堂でも、ボリビアの人にとってはごく身近な一杯です。
スープの中身は、すりつぶしたピーナッツ、牛肉、じゃがいも、にんじんや玉ねぎなどの野菜、そして米やマカロニ。仕上げに揚げたじゃがいもをスープの上に一層のせるのが、この料理の目印です。とろりとしたスープを吸ったじゃがいもは、時間がたつとしっとり、表面に浮いた部分はさくっと。ひと皿の中で食感が変わっていくのも楽しみのひとつです。
2018年10月31日、ボリビア料理人協会(Asociación Boliviana de Chefs)は、ソパ・デ・マニを国を代表する料理「プラト・バンデラ(plato bandera)」とし、毎年8月7日を「ソパ・デ・マニの日」にする法案を発表しました。料理はSNSでの投票で選ばれ、ホテルや食堂、市場、家庭でこのスープを食べるよう呼びかける内容でした。
南米はピーナッツの原産地です。ボリビアはピーナッツの地理的な起源の中心とされ、遺伝的な多様性がとくに大きいのはボリビアのチャコ地方だと伝えられています。土地の豆を、土地の肉と芋で煮る。そう考えると、この国の食卓を一杯に詰めたスープだといえそうです。
マカロニか米か、土地ごとに変わる一杯

ソパ・デ・マニは、地方によって中身がかなり変わります。西部の高地ではマカロニ、東部の低地では米を入れ、地域によってはインゲン豆を入れることもあると紹介されています。ロス・ティエンポスの記事で料理人のエミリオ・ガルニカ・ビジャゴメスが挙げた例はさらに細かく、ラパスでは「マンガ・デ・フライレ」と呼ばれる短いマカロニを使い、チャコでは「ピーナッツだけで、ほかには何も入れない」そうです。
スクレのソパ・デ・マニは黄色いことで知られています。スクレではキャベツ、チューニョ(凍結乾燥させたじゃがいも)、ひよこ豆を入れ、パリージョ(palillo)という黄色い香辛料で色をつけます。小麦を入れる地域もあるそうです。同じ名前のスープでも、国の中で色まで変わるのが面白いところです。
コチャバンバでは毎年、「ピカンテとソパ・デ・マニの祭り(Feria de los Picantes y la Sopa de Maní)」が開かれています。2024年8月4日の第10回には20を超える出店者が集まりました。
このスープの歴史は、思ったより新しいかもしれません。歴史家ベアトリス・ロセルスは、19世紀より前の記録にはこのレシピが見当たらないと指摘しています。もっと濃厚で手の込んだピーナッツの煮込み「カスエラ・デ・マニ」から生まれたと考える研究者もいるそうです。
チェ・ゲバラの話も、このスープの伝説として有名です。1967年に捕らえられたゲバラが処刑の前にソパ・デ・マニを口にした、という話が伝わっていますが、細かな経緯は語り手によって違います。一方、国外で知られるきっかけとして確かなのは、2014年のテレビ番組「マスターシェフ・アルゼンチン」です。ボリビア人の両親を持つエルバ・ロドリゲスがこのスープで優勝し、ソパ・デ・マニの名が広く知られるようになりました。
途中で見つける、味の決め手
焦げつきと分離を防ぐコツ

ソパ・デ・マニで一番多い失敗は、鍋底の焦げつきです。ピーナッツのペーストはでんぷんと脂肪を含み、とろみがつくほど鍋底に沈んで熱がこもります。厚手の鍋を使い、火は弱めの中火から上げないでください。混ぜるときは表面をかき回すのではなく、へらを鍋底に当てて端から端までなでるように動かすのがこつです。
少しでも焦げた匂いがしたら、底をこすらずに、焦げていない上の部分を別の鍋へ移しましょう。焦げた膜を混ぜ込むと、スープ全体に苦みが回ってしまいます。
ペーストの粒が粗いと、煮ているうちに油が浮いて分離したように見えることがあります。気になるときは、ペーストを作る段階でミキサーをもう1分長く回してください。煮込み中に浮いた油は、よく混ぜればスープになじみます。
翌日に温め直すと、米が水分を吸ってかなり固くなります。湯を少しずつ足し、弱火で混ぜながらのばしてください。揚げたじゃがいもは、温め直したスープに食べる直前にのせると、食感が残ります。
鶏肉で、マカロニで — アレンジのしかた

肉は牛肉に限りません。米国の料理サイトTogether Women Riseに載っている、ロミー・ホルマンの著書『The Bolivian Cookbook』をもとにしたレシピでは、伝統的には牛のあばら肉か鶏肉で作ると紹介されています。鶏もも肉にする場合は、骨付きのぶつ切りを使うとだしがよく出ます。同じレシピには、仕上げ前ににんにく、クミン、黒こしょうをつぶして加え、最後にオレガノをひとつまみ振る手順もあります。牛肉で作るときにこの香りを足すと、少し土っぽい香りが加わります。
米をマカロニに替えると、西部の高地風になります。短いマカロニを米と同じタイミングで加え、袋の表示時間を目安に煮てください。チャコ風にピーナッツだけのスープにする場合は、肉を省いて野菜ブイヨンで作り、揚げたじゃがいもで食べごたえを補います。同じレシピは、ベジタリアン向けにも合うと書いています。
日本の食材で作るなら、長ねぎのほかに白菜やキャベツを加えても、スクレのキャベツ入りの方向へ寄せられます。ひよこ豆の水煮を加えると、ほくほくした食感も楽しめます。
食べ方

テーブルでは、まずそのまま一口。ピーナッツのやさしい甘さと牛肉のだしを確かめてから、辛いソースを少しずつ落としていきます。ボリビアでは、ロコトという肉厚の唐辛子で作る辛いサルサ「リャフア(llajua)」を添えるのがおなじみです。今回の玉ねぎとトマトのソースは、ブエノスアイレスのレシピに従ったものです。パンを添えてもよく合います。
ボリビアの献立にならうなら、このあとに肉料理を一皿続けるのが本来の流れです。ボリビアの薄焼き牛カツシルパンチョを二皿目にすると、日曜の昼食らしい組み合わせになります。ピーナッツを煮込みに使う料理をもっと知りたいなら、マリのピーナッツシチューマフェと食べ比べてみてください。同じ豆でも、大陸が変わると味の方向がまるで違います。
よくある質問

ピーナッツバターで代用できますか?
おすすめはしません。市販のピーナッツバターには砂糖や塩、油が加えられているものが多く、生のピーナッツをすりつぶしたペーストとは味もとろみも変わります。生ピーナッツが見つからない場合は、無塩のローストピーナッツを同じ量だけミキサーにかけるほうが近い仕上がりになります。
生のピーナッツはどのくらい煮ればいいですか?
ここでのレシピは、ペーストを入れてから50分、米を入れてさらに約20分、合わせて70分ほど煮ます。Together Women Riseのレシピも、生のピーナッツは少なくとも1時間は煮る必要があるとしています。短時間で切り上げず、時間をかけて煮込んでください。
圧力鍋で作れますか?
牛すね肉を先に圧力鍋で柔らかくしておくのは手ですが、ピーナッツペーストと米を入れたあとは、普通の鍋で混ぜながら煮るほうが安心です。とろみのあるスープは、圧力鍋の中で鍋底に焦げつきやすくなります。
辛くないようにできますか?
スープ自体には唐辛子を入れていないので、辛くありません。辛さは別添えのソースだけで調整します。子どもと一緒に食べるなら、ソースは大人の分だけ取り分けてください。
作り置きはできますか?
米入りのスープは、時間がたつと米が水分を吸って固くなります。作り置きするなら、米を入れる前の段階で冷まして冷蔵し、食べる日に温め直してから米を煮るとよいでしょう。保存日数のはっきりした目安は示せないので、早めに食べきってください。













