鍋のココナッツミルクが、ふつふつと煮詰まっていきます。白かった液体はだんだん水気を失い、底に残った固まりが薄茶色から濃いキャラメル色へ。甘く香ばしい匂いが台所に満ちたら、そこへ米を入れて油をからめ、水とレーズンを足して炊き上げます。コロンビアのカリブ海岸、城壁の街カルタヘナで、揚げた魚の隣に必ずといっていいほど盛られているのが、このキャラメル色のココナッツライス、アロス・コン・ココ(arroz con coco)です。日本では缶詰のココナッツミルクで作れます。
カルタヘナの昼ごはんは、揚げ魚とココナッツの米

カルタヘナの海辺で昼ごはんといえば、揚げた魚です。モハーラ(ティラピアの仲間)やフエダイを、煮えたぎる油の大鍋からすくい上げたばかりの一皿に、アロス・コン・ココ、パタコン(青いプランテンをつぶして揚げたもの)、サラダを添える。カルタヘナの地元紙エル・ウニベルサルは、アロス・コン・ココをただの付け合わせではなく、カルタヘナ料理の根幹だと書いています。
ココナッツの木が多いカリブ海岸では、昔から米をココナッツで炊いてきました。米国フロリダの公共放送WLRNの記事に登場するボゴタ出身の女性は、カルタヘナに住むおばからこの料理を教わり、「海岸へ行くと毎日食べた」と振り返っています。内陸のボゴタの家では、作る日は特別だったそうです。海辺では日常の味、内陸ではごちそう。同じ国の中でも、ココナッツとの距離で米の意味が変わるのは面白いところです。
アロス・コン・ココには「白(blanco)」と「黒(negro)」の二つがあります。白はココナッツミルクでそのまま炊くもの。黒は、ココナッツを煮詰めてできるキャラメル色の「ティトテ(titoté)」で米を色づけたもので、甘みと香ばしさが強くなります。今回作るのは、レーズンを入れた黒のほうです。
ティトテ — ココナッツを煮詰めた、黒い宝物

ティトテは、この料理の味と色を決める部分です。昔ながらの作り方では、新鮮なココナッツの果肉をすりおろして水と一緒にミキサーにかけ、こして果汁を取ります。その果汁や果肉を鍋で加熱すると、水分が飛んで油が分かれ、固形分がこんがりと色づいていきます。この焦がす一歩手前の茶色い固まりと油がティトテで、米を炒めるときの油になり、炊き上がりの色にもなります。
手間と時間のかかる作業なので、コロンビアのスーパーでは瓶詰めのティトテも売られています。WLRNの記事の女性も、出来合いを見つけると楽だと話しています。日本では瓶詰めはまず見かけないので、缶詰のココナッツミルクを30分ほど煮詰めて作るのが現実的です。コロンビア料理のレシピサイトを主宰するエリカ・ディーニョのレシピも、この方法でティトテを作っています。
カリブ海岸の料理には、アフリカから連れてこられた人々の子孫が受け継いだ食文化が色濃く残っています。エル・ウニベルサルの記事も、カルタヘナの甘い菓子を「アフロカリブの伝統を受け継ぐ味」として紹介しています。ココナッツをふんだんに使う料理が多いのも、この海岸ならではです。
途中で見つける、味の決め手
焦がさずに煮詰めるコツ

アロス・コン・ココの失敗は、ほとんどがティトテの焦げすぎです。キャラメル色と黒焦げの差は、ほんの1〜2分。油が分かれはじめたら火のそばを離れないと決めておくだけで、失敗はぐっと減ります。厚手の鍋を使うと、熱がゆっくり伝わって色づきの進み方が穏やかになります。
色を見るときは、鍋底の固まりを木べらで少しすくって、白い皿の上で確かめると分かりやすいです。鍋の中は暗く見えるので、実際より濃く見えがちです。
逆に、煮詰めが足りないと、米が白っぽく炊き上がって「白」のアロス・コン・ココに近い味になります。それはそれでおいしいのですが、黒の香ばしさは出ません。油がはっきり分かれて透明になるまで、根気よく待ってください。
炊いたあとに残ったら、冷蔵庫で保存し、電子レンジで温め直します。エリカ・ディーニョのレシピは、密閉容器で冷蔵2日までを目安にしています。温め直すときは水を少し振ると、ぱさつきません。
白いご飯にも、ココナッツの甘みを — アレンジのしかた

レーズンの甘みが苦手なら、入れずに炊いてもかまいません。砂糖を大さじ1に減らすと、魚や肉料理に合わせやすい、甘さ控えめのココナッツライスになります。「白」で作りたいときは、ココナッツミルクを煮詰めずに水と合わせて米を炊き、塩だけで味をつけます。
砂糖を黒糖に替えると、コロンビアのパネラ(さとうきびの汁を煮詰めた砂糖)に近いコクが出て、色もいっそう深くなります。日本の台所で手に入る材料でできる、いちばん手軽な本場寄せです。
よくある質問

炊飯器で作れますか?
ティトテは鍋で作る必要があります。ティトテで米を炒めたあと、水と調味料と一緒に炊飯器の内釜へ移し、普通に炊くこともできます。ただし、焦げついたティトテが内釜を傷めないよう、木べらで鍋からきれいにこそげて移してください。
ココナッツミルクパウダーで作れますか?
パウダーを湯で溶いても作れますが、油分が少ない商品が多く、ティトテができるまでに時間がかかったり、油が分かれにくかったりします。できれば缶詰か紙パックの液体のココナッツミルクを使ってください。
甘いごはんはおかずに合いますか?
カルタヘナでは、塩気のある揚げ魚に合わせるのが定番です。甘さが気になる場合は、砂糖を減らすかレーズンを省くと、普段の食卓にも合わせやすくなります。
鍋の焦げつきはどう落とせばいいですか?
ティトテを作った鍋は、底に茶色い膜が残ることがあります。ぬるま湯を張ってしばらく置くと、柔らかくなって落としやすくなります。













