夕方、断食明けを待つ人びとで、ラマダンの屋台市(バザール・ラマダン)はにぎわい始めます。炭火の長い焼き台の上には、オレンジ色のたれをまとった鶏肉がずらりと並び、売り手が刷毛でたれを塗るたびに、ジュッと音を立てて煙が上がります。ココナッツの甘い香りに、レモングラスとターメリック、焦げた砂糖の匂い。マレーシア北東部クランタン州の名物、アヤム・ペルチク(Ayam percik)です。
たれがはねる音から名前がついた、東海岸の焼き鳥

マレー語で「アヤム」は鶏、「ペルチク(percik)」は、はねる、飛び散るという意味です。炭火で焼いているうちに、塗ったたれがはねて鶏肉に降りかかる。その様子から名前がついたのではないか、と料理ブロガーのK.P.クワンは書いています。たれは、ココナッツの濃い乳に、香辛料を炒めたペーストを合わせたもの。焼いている最中に塗り、焼き上がってからもたっぷりかけるので、表面は香ばしく、たれはとろりと甘い焼き鳥になります。
マレーシアでは全国で食べられていますが、クランタン州の名物として知られています。そのクランタンには大きく2つの流儀があり、唐辛子を入れずに甘くクリーミーに仕上げる白いたれと、唐辛子のペーストを加えてほんのり辛くした赤いたれがあります。この記事で作るのは、赤いたれのほうです。
ラマダンの時期、アヤム・ペルチクの屋台は大忙しです。クランタン州パシルマスの店では、ふだんは1日に鶏50羽ほどのところ、断食月には250〜300羽まで増えると、マレーシアの英字紙ニュー・ストレーツ・タイムズが伝えています。この店のたれは、水を加えない純粋なココナッツミルクで作るそうです。
オーストラリア・シドニーのマレーシア料理店を紹介した記事では、たれを「揚げた香辛料とココナッツミルク、ココナッツの果肉で作る、とろりとした半分甘いソース」と表現しています。焼いている途中で鶏肉に塗り、こんがりと焼き色がついたら火から下ろして、もう一度たれで覆う。塗っては焼くを繰り返すのが、この料理の基本です。祭りやラマダンの屋台市のほか、村の宴でも大量に焼かれます。
日本の台所で作るときに知っておきたいこと

本場は炭火焼きですが、この記事は、K.P.クワンが自身のサイトTaste Of Asian Foodで紹介しているオーブン焼きのレシピを基にしています。先にたれで鶏肉を煮てから、オーブンでたれを何度も塗って焼くので、家庭でも中まで火が通りやすく、焦げすぎないのが利点です。
たれの柱はココナッツクリームです。脂肪分の多い濃いものを使うと、焼いたときにたれが流れ落ちにくく、鶏肉にしっかり残ります。缶入りのココナッツクリームが手軽ですが、ココナッツミルクを使う場合は、缶の上に固まった濃い部分を多めにすくって使ってください。
レモングラスは、根元の白い部分を包丁の背やめん棒でたたいてつぶしてから入れます。繊維が割れると香りがたれに出やすくなります。生のレモングラスが手に入らなければ、冷凍品でも同じように使えます。
タマリンドはマメ科の木の実で、酸っぱい果肉をペーストにしたものが売られています。たれの甘さを引き締める役目です。手に入らない場合は、ライム果汁で代用するレシピもあります。パームシュガーは、なければきび砂糖で作れます。生のターメリック(ウコンの根)は手に入りにくいので、粉末で代用して構いません。
途中で見つける、味の決め手
ご飯にのせて、たれごと食べる

アヤム・ペルチクは、ご飯と一緒に食べるのが定番です。クランタンでは、蝶豆の花で青く色づけたご飯にハーブや野菜を合わせるナシクラブと組み合わせることもあります。家で作るときは白いご飯でも十分です。皿に残ったたれをご飯に混ぜると、ココナッツの甘さとレモングラスの香りで、ご飯がどんどん進みます。
付け合わせの生の玉ねぎとライムは、こってりしたたれの口直しです。ライムを搾りかけると、甘いたれがすっと軽くなります。マレーシアの料理をもう少し並べるなら、甘辛いトマトのソースで鶏を煮るアヤム・マサッ・メラや、ココナッツミルクで炊くご飯のナシレマッもよく合います。
アヤム・ペルチクの伝統的な焼き方は炭火焼きです。焼きながらたれを何度も塗り重ねるので、たれが炭に落ちるたびに煙が立ち、香ばしさが鶏肉に重なっていきます。家のオーブンではその煙の香りは出ませんが、焦げ目をしっかりつけると近い香ばしさになります。
アレンジの楽しみ方

唐辛子を入れずに作れば、クランタンのもう一つの流儀である、白くて甘いたれのアヤム・ペルチクになります。ペーストから乾燥赤唐辛子を除き、ほかは同じ手順で作ってください。子どもと一緒に食べるときにも向いています。辛さを控えつつ唐辛子の香りは残したいときは、戻した唐辛子を一度さっとゆでてから使うと、辛みがやわらぎます。
鶏肉の代わりに、魚の切り身で作ることもできます。クランタンの焼き鳥の店では、焼き魚も一緒に売られています。サバや白身魚の切り身に同じ下味をつけ、煮る工程を省いてたれを塗りながら焼くと、魚の脂とココナッツのたれがよく合います。魚は鶏肉より焼き時間を短くし、身がほぐれるようになれば焼き上がりです。
よくある質問

オーブンがない場合は?
魚焼きグリルやフライパンでも焼けます。たれで煮た鶏肉を、魚焼きグリルの中火でたれを塗りながら焼くか、フライパンにオーブンシートを敷いてふたをし、弱めの中火で焼いてから、最後にふたを取ってたれを塗って焼き色をつけます。どちらも中心まで火が通ったか、必ず確かめてください。
作り置きはできますか?
焼いたアヤム・ペルチクは、粗熱を取ってから保存容器に入れて冷蔵し、翌日までに食べきってください。たれは別の容器に分けておくと扱いやすくなります。温め直すときは、オーブントースターで中まで熱くなるまで焼き、温めたたれをかけます。
ココナッツクリームとココナッツミルクの違いは?
どちらもココナッツの果肉から搾った乳ですが、ココナッツクリームのほうが脂肪分が多く、とろりと濃厚です。K.P.クワンは、料理に使うなら脂肪分20%以上の濃いものを選ぶようすすめています。ココナッツミルクで作る場合は、たれを煮詰める時間を長めにとってください。
タマリンドがない場合は?
ライム果汁大さじ1で代用できます。タマリンドの酸味はまろやかで少し甘みがありますが、ライムを使うと、すっきりした酸味の仕上がりになります。















