朝のマンダレー。通りの屋台の台に、白く太い麺がこんもり盛られたざるが並びます。注文すると、売り手は麺をひとつかみ皿に取り、黄色く光る鶏の油をひと回し、きな粉のような粉をぱらり、ライムをぎゅっと搾って、素手で手早く和えていきます。横には湯気の立つ小さな椀のスープ。ミャンマー中部の朝を代表する汁なし麺、ナンジートゥ(Nan gyi thoke)です。
金の糸から名前をもらった、マンダレーの朝の麺

ビルマ語で နန်းကြီးသုပ် と書きます。「ナンジー」は「太い糸」という意味で、丸くて太い米麺のこと。この「ナン」という言葉は、金細工師が金を引き延ばして細い糸にする工程に由来するといわれます。後ろの「トゥ(thoke)」は和え物のことで、ミャンマーには茶葉の和え物ラペットゥや豆腐の和え物など、「〜トゥ」と名のつく料理がたくさんあります。つまりこの名前は、太い米麺の和え物という、料理そのままの意味です。
生まれはミャンマー第二の都市マンダレーの屋台で、今も街を象徴する味とされています。朝ごはんに食べるのが定番ですが、昼食やおやつにもなり、屋台のほか、決まった場所の食堂、レストラン、喫茶店でも出されています。呼び名は地域で変わり、ミャンマー南部(下ビルマ)では「ナンジートゥ」、中部から北部では「モンディートゥ」と呼ぶことが多いそうです。最大都市ヤンゴンでは少し細い中太麺を使うのが普通で、「マンダレー・モンディ」の名で出す店もあります。
マンダレーでは、麺の太さを選べる店もあります。いちばん太い「ナンジー」、中くらいの「ナンラッ」、細い「ナンテー」。同じ和え物でも、麺が変わると油と粉のからみ方がまったく違うものになります。
ビルマ料理のレシピサイトBurmaliciousは、この料理が豆類の産地として知られる中部の乾燥地帯で生まれたことに触れています。和え麺の主役のひとつが、煎ったひよこ豆の粉であるのもうなずけます。同じサイトは、主役は鶏肉ではなく、カレーの香りが移った油だとも書いています。鶏肉はほぐして少しのせる程度。ターメリックとパプリカで黄色く染まった油が麺を包み、ひよこ豆の粉が香ばしさととろみを足し、ライムとナンプラーが味を引き締めます。
日本の台所で作るときに知っておきたいこと

いちばんの難所は麺です。マンダレーの麺は、米粉の生地を発酵させてから作る丸い太麺で、柔らかくなめらかなのに、濃いたれと和えてもべちゃっとしないのが特徴です。日本では同じ麺はほとんど手に入りません。近いのは、ベトナムのブンボーフエ用として売られている太い丸型のライスヌードル(米麺)で、アジア食材店や通販で見つかります。Burmaliciousのレシピも、入手できなければうどんで作ってよいとしています。冷凍うどんで作ると、もちっとした弾力が出て、米麺よりも食べごたえのある仕上がりになります。
ひよこ豆粉は、インドでベサン(besan)と呼ばれる粉です。インド食材店や製菓材料店、通販で手に入ります。これを油をひかずにじっくり煎ると、きな粉に似た香ばしい粉になります。手間ですが、ここを省くとこの料理らしさがほとんど消えてしまうので、ぜひ用意してください。
ひよこ豆粉は、一度に多めに煎って保存しておけます。完全に冷ましてから密閉びんに入れれば、次に作るときは鶏カレーを用意するだけで済みます。和え麺のほか、サラダやスープにふっても使えます。
ターメリック、パプリカパウダー、ナンプラーはスーパーの調味料売り場でそろいます。パプリカパウダーは辛くないタイプを使い、色を出す役目にします。辛さは、あとで加えるにんにく唐辛子油で調整します。
途中で見つける、味の決め手
スープと付け合わせで、朝の一皿になる

ナンジートゥには、小さな椀の澄んだスープが付きものです。鶏のゆで汁に水を足して約750mlにし、中火で沸かします。魚のすり身団子を入れて、浮き上がって中まで火が通るまで3〜5分煮たら、小ねぎと白こしょうを散らします。麺を食べる合間にスープをすすると、油と粉で重たくなった口の中がすっと軽くなります。
マンダレーやヤンゴンの屋台では、豆のかき揚げや魚のすり身を揚げたチップス、生の玉ねぎやエシャロットの薄切り、もやしなどを添えて出す店もあります。スープに高菜の漬け物を浮かべることもあるそうです。日本で作るなら、市販のさつま揚げを薄く切って添えると、魚の旨みが加わります。スープに高菜漬けを少し入れると、現地の酸味に近づきます。
マンダレーには、鶏ではなく魚を丸ごと使い、澄んだスープと合わせて出す「コータウン・モンディ」と呼ばれる種類もあります。同じ街の中でも、麺と和えるものの組み合わせはいくつもあります。
ミャンマーの麺料理をほかにも作るなら、なまずのだしで米麺を食べる国民食モヒンガーや、ココナッツミルクのスープに小麦麺を合わせるオーノ・カウスエ、トマトと豚肉のたれで和えるシャン州のシャン・カウスエと比べてみてください。同じ米麺でも、地方ごとに味の組み立てががらりと変わります。
アレンジの楽しみ方

鶏肉の代わりに豚肉で作ることもあります。豚ももの塊肉を同じ香味野菜でやわらかくなるまでゆで、細くほぐして同じ手順でカレー油にします。ミャンマーには、太い米麺の代わりにパスタの平麺を使う和え麺もあり、乾燥のフェットチーネやタリアテッレをゆでて同じ油と粉で和えると、もっちりとした歯ごたえの一皿になります。
辛さが欲しい人は、和えるときににんにく唐辛子油を小さじ1ほど混ぜ込みます。肉なしで作るなら、鶏肉を省き、玉ねぎとにんにくを炒めた油にターメリックとパプリカを加えた香味油だけで和える方法もあります。ナンプラーの代わりに塩としょうゆで味をつければ、魚介も使わない一皿になります。
よくある質問

ひよこ豆粉が手に入らない場合は?
きな粉で代用すると、香ばしさとまとわりつく感じは近くなります。ただ、きな粉は大豆の甘い香りがあり、ひよこ豆粉の淡い香ばしさとは味が違います。きな粉を使う場合は煎る必要はありません。量を大さじ1から試してください。
麺は冷たいままでいいですか?
現地では、温かいカレー油で常温の麺を和えるのが一般的です。ゆでた麺を水で洗ったあと、冷たすぎるようなら熱湯をさっとかけて水気をきると、油が固まらずになじみます。
鶏カレーの油はどのくらい日持ちしますか?
鶏肉と一緒に密閉容器に入れて冷蔵し、翌日までに使い切ってください。温め直すときはフライパンで全体が熱くなるまで加熱します。煎ったひよこ豆粉は、完全に冷ましてから密閉びんに入れれば常温で保存できますが、湿気ると香りが落ちるので早めに使います。
にんにく唐辛子油は作り置きできますか?
清潔なびんに入れて冷蔵し、清潔なスプーンで取り分けてください。にんにく入りの油は、常温に置いたままにしないでください。においや色に変化があれば使わないようにします。













