ジンギスカン ― 鍋の頂に羊肉、ふちに野菜
羊肉は味付けせずに焼き、焼けた一切れずつを食卓でたれにつけます。羊肉自身の脂で鍋をなじませ、肉汁は野菜のほうへ流します。
北海道のジンギスカンは、家でも屋外でも人が集まって囲む料理です。春は桜の下で、夏は屋外の食事で、よく食べられています。中央が盛り上がった鉄鍋に、羊肉と野菜をのせて焼きます。肉は鍋の頂に、野菜はふちに置くのが基本です。肉が焼けると、肉汁が斜面を下って、下にある玉ねぎやもやし、かぼちゃに味をつけていきます。
北海道には、大きく分けてふたつの作り方があります。ひとつは、味付けしたたれに肉を漬けてから焼く型。もうひとつは、肉を味付けせずに焼き、別に用意したたれにつけて食べる型です。この記事は後者で、焼いてからたれにつける作り方に沿っています。生の羊肉には何もつけずに鍋へのせ、味は、醤油・酢・酒に、りんご・梨・にんにく・しょうがをすりおろしたたれで決めます。ふたつの型は材料も手順も違うので、肉を買う前にどちらを作るのかを決めておくと迷いません。
日本語では「ジンギスカン」と書き、「成吉思汗」と書くこともあります。これはチンギス・ハンの名を日本語で当てた表記です。ただ、この名前から料理の発祥地が決まるわけではありません。由来については、後の節で触れます。
このレシピについて ― 北海道の4人分の家庭向けレシピ
このレシピは、農林水産省の郷土料理集「うちの郷土料理」に載っている、ジンギスカンの4人分のレシピに沿っています。そのページは、書籍『北海道の味』(南部あき子)のレシピとして紹介されています。地域や家庭によって作り方が違うこと、掲載の写真がレシピの記載と異なる場合があることも、同じページに書かれています。分量・切り方・手順はすべてこの一本のレシピからとっています。北海道の別のページにある違う切り方や、味付け肉型の下味、学校給食版で使う加熱したたれは混ぜていません。
編集部で決めたことは、次のとおりです。
- 七味の入れるタイミング:七味唐辛子は材料に載っていますが、手順には入れる場面が書かれていません。この記事では、ほかの材料と一緒に、たれに混ぜます。
- 醤油と酢:レシピには種類の指定がありません。この記事では、日本で一般的な濃口醤油と穀物酢を使います。
- 羊肉:レシピは薄切りの羊肉としか書いていません。この記事では、薄切りで骨のないラムを使います。マトンでも作れます。
- 食品安全:肉の中心を75°Cまで加熱すること、生肉の器具を分けることは、厚生労働省の家庭向けの一般的な案内によるものです。レシピ自体にある時間や温度ではありません。
なお、世界ごはん紀行では、このレシピを台所で試作していません。写真は各動作を示すもので、分量や温度、加熱時間を保証するものではありません。
選び方と代用
味付け済みではなく、プレーンな羊肉を買います。 味付けのない薄切りのラムかマトンを探してください。あらかじめ味がついたジンギスカン用の肉は、味付け肉型のものです。ラムは風味が穏やかで、マトンは羊らしい風味がはっきりしています。北海道ではどちらも食べられています。鍋になじませる脂が必要なので、肉には脂身が少しついているものを選びます。
野菜は、ふつうのもので足ります。 玉ねぎは一般的な黄玉ねぎで大丈夫です。じゃがいもは薄切りにしやすいものを選びます。なすは、写真では日本のなすを使っています。長なすなど形が違うものは、同じくらい食べやすい大きさに切ってください。かぼちゃは日本で一般的なかぼちゃです。もやしは、ふつうに売られているもので問題ありません。とうもろこしは生のものをゆでてから鍋にのせます。1本を丸ごと使います。
たれの果物は、りんごと梨です。 りんごは品種を問いません。梨は、日本では和梨が手に入れやすい選択です。
道具
- ジンギスカン鍋:中央が山のように盛り上がり、ふちに溝がある鉄鍋
- または、平らなホットプレートか厚手のフライパン(肉汁が野菜のほうへ流れる形にはなりません)
- 生肉用と野菜用で分けたまな板
- 包丁
- おろし器
- とうもろこしをゆでる鍋
- たれを入れる器(1人に1つずつでもよい)
- 生肉にだけ使うトング
- 食べる用の箸(生肉用のトングとは分ける)
- 食品用温度計(あれば)
うまくいかないときは
| 困りごと | 考えられる理由 | 対処 |
|---|---|---|
| 羊肉が硬い | 鍋の上に置いておく時間が長かった | 薄切りの羊肉はすぐ焼けます。火が通ったらすぐ取り、肉は少しずつ足してください |
| 鍋に脂がなじまない | 肉に脂身がほとんどない | もっと脂の多い肉を鍋にこすりつけます。それでも足りないときは少量の油を使えますが、これは家庭での調整で、レシピ自体は油を使いません |
| ふちの野菜が生のまま | ふちは頂より温度が低い、または鍋に詰め込みすぎている | そのまま焼いて、返してください。生肉の汁がついたものは、火が通るまで焼きます |
| たれの味がぼやける、または角が立つ | 塩と七味が「少々」としか決まっていない | 塩か七味をひとつまみずつ加え、そのたびに味を見ます |
| 肉汁が野菜に流れない | 平らなホットプレートかフライパンで焼いている | 平らな面では、そうなります。肉と野菜を並べて焼き、いつもどおりたれにつけてください |
アレンジ
- 味付け肉型:北海道中央部の内陸にある滝川では、味付けしたたれに肉を漬けてから焼きます。これは材料も手順も別の地域の型で、このレシピの直し方ではありません。ふたつを混ぜないでください。
- ラムの代わりにマトン:マトンにすると、羊らしい風味が強くなります。分量も作り方も同じです。
- 専用鍋がないとき:平らなホットプレートか厚手のフライパンでも焼けます。ただし、山形の鍋のように、肉から野菜へ肉汁が流れる形にはなりません。
- 締めの麺:ジンギスカンのあと、鍋に残ったたれで、うどんなどの麺を煮て食べる人もいます。これは任意の食べ方で、本レシピの一部ではありません。麺は十分に温めてください。
- 家庭の野菜:使う野菜は家庭によって違います。このレシピのとおりに試すなら、まず上に書いた7種の野菜から始めてください。
背景 ― 羊毛、屋外の食卓、ふたつの流儀
ジンギスカンは、北海道の羊から生まれました。 農林水産省によると、北海道では羊毛をとるために綿羊の飼育が行われていました。戦後に羊毛をめぐる事情が変わると、羊を肉用に育てて食べることが増え、この背景が、羊肉がこの地域で身近になった流れと結びついています。全国学校栄養士協議会の資料にも、似た説明があります。現在、ジンギスカンは北海道全域で知られ、家庭でも、春の花見などの屋外の集まりでも食べられています。
起源は定かではありません。 農林水産省は、ジンギスカンがどう生まれたかについて複数の説を挙げていて、その一つは、中国の羊の焼き料理を参考にしたというものです。名前から連想される、モンゴル起源の話や、チンギス・ハンが兜で肉を焼いたという話は、確かな事実とはされていません。
ふたつの地域型があります。 農林水産省の「にっぽん伝統食図鑑」は、山形の鍋の中央に肉、周囲に野菜を置くことを説明したうえで、ふたつの型を対比しています。肉をあらかじめ漬ける滝川と、味付けしていない肉を焼いてからたれにつける札幌の月寒です。これは地域差であり、どちらかが正しくてどちらかが間違いというものではありません。札幌市の公式観光サイトも、ラムとマトンの両方が使われること、どちらの型もあること、食べ方は家庭や店によって違うことを伝えています。
ほかの日本の料理は、日本のページからどうぞ。
よくある質問
味付けジンギスカンとは何が違いますか?
味をつけるタイミングが違います。味付け肉型では、肉を焼く前にたれに漬けておきます。この記事の後づけ型では、味付けしていない肉を焼いてから、別のたれにつけます。どちらも北海道の型で、漬け込みは滝川、焼いてからつけるのは札幌の月寒が知られています。焼く前に漬けるか、焼いたあとにつけるかが分かれ目です。
ジンギスカン鍋がなくても作れますか?
作れます。平らなホットプレートや厚手のフライパンが、現実的な代わりになります。ただし、これはレシピ自体ではなく編集部の提案です。平らな面では、山形の鍋のように肉汁が野菜へ流れることはありません。
ラムとマトン、どちらを使いますか?
どちらでも使えます。北海道ではどちらも食べられています。ラムは穏やかで、マトンは羊らしい風味が強めです。この記事では薄切りで骨のないラムを使っていますが、レシピ自体が指定しているのは、薄切りの羊肉だけです。
野菜を変えてもよいですか?
家庭によって野菜が違うのは事実です。この記事の分量と切り方は、レシピにある7種の野菜のものです。変える場合は自分なりのアレンジとして扱ってください。ほかのレシピでは、野菜の切り方が違うこともあります。
たれは、焼く前に肉にかけますか?
かけません。この型では、たれは別の器に入れておき、焼けた肉や野菜をつけて食べます。
七味は、いつ入れますか?
レシピには七味が材料として載っていますが、入れる場面は書かれていません。この記事では、編集部の判断で、たれを混ぜるときに加えます。
たれの酒は、飛びますか?
たれは加熱しないので、酒は生のまま使います。誰が食べるかを決めるときに、頭に置いておいてください。たれは加熱しないので酒も生のままです。
肉が焼けたかどうか、どう見分けますか?
レシピには焼き時間も温度も書かれていません。肉はしっかり焼いてください。色だけでは判断できません。家庭での一般的な目安として、厚生労働省は、中心を75°Cで1分以上加熱するよう案内しています。生肉用のトングと食べる箸は分けてください。

























