スープ・ア・ロニョン ― チーズの皮、やわらかなパン、玉ねぎの甘み
この一杯で守りたいのは三つです。玉ねぎは濃い茶色にせず、やわらかく甘くなるまでゆっくり蒸らし煮にすること。玉ねぎが主役になる軽い液体にすること。そして、パンが沈む前に、パン1枚とチーズをのせて熱に入れることです。
スプーンが最初に当たるのは、小さな器の縁まで張りだしたチーズの皮です。ところどころ金色にふくれた皮を割ると、その下でパンがスープを吸ってやわらかくほどけ、玉ねぎのスープから湯気が立ちのぼります。ひと口ごとに、どの層も少しずつ一緒にすくい上げられます。
スープ・ア・ロニョン(soupe à l'oignon)はフランス語で単に「玉ねぎのスープ」という意味で、玉ねぎのスープにはさまざまな形があります。この記事で扱うのは、その中のひとつ。パンとチーズをのせて熱で焼き色をつけるグラティネ(gratinée)、とくにパリの旧中央市場アル(Les Halles)と結びつくグラティネ・デ・アルです。フランスの国立モニュメント機構(Centre des monuments nationaux)とコンシェルジュリーの教育資料は、この料理を、アルの商人や買い物客を温めるために露天の売り手が出していたスープとして紹介しています。19世紀半ばには、市場周辺の飲食店のメニューにも載り、パリの夜の街を象徴する一品になっていました。
レシピは、この教育資料にある4人分のグラティネ・デ・アルに沿い、編集上の選択を明記しながら組み立てています。材料は、黄玉ねぎ、バター、水、田舎パン、コンテと、ふつうのスーパーで揃うものです。
Soupe à l'oignon は玉ねぎのスープ全般を指す言葉です。Soupe à l'oignon gratinée は、パンとチーズをのせて焼き色をつけたもの。教育資料は、市場のこの料理を gratinée des Halles と呼んでいます。
夜の市場のためのスープ
アルは、パリの中心にあった巨大な食料市場です。コンシェルジュリーの教育資料によれば、玉ねぎのスープはもともと、そこで働き、買い物をする人たちに露天の売り手が出した料理でした。冷え込む時間帯に出す、熱い一杯です。19世紀の半ばには、市場の周りのレストランやバーのメニューに移り、パリの夜の文化と切り離せないものになっていきました。
同じ資料は、ジェラール・ド・ネルヴァルの『La Bohème galante』(1852年)も引いています。アルの人々が玉ねぎのスープにパルメザンをすりおろしてかけている、という一節です。この記事のレシピではエメンタールかコンテを使うので、並べて読むと面白い点です。このスープに合わせるチーズは、ひとつの種類に決まっていたわけではありません。
ルイ15世が狩猟小屋で、玉ねぎ、バター、シャンパンから即興で作ったという話もよく語られます。SIAL Parisはこれを広く知られた逸話として紹介しながら、歴史家はその正確さに疑問を持っているとも書いています。伝説として受け止め、料理の起源とは考えないのが無難です。
道具
- 包丁とまな板
- ふた付きの厚手の鍋
- 木べらまたはへら
- 熱湯を沸かすケトル
- おたま
- オーブンのグリル(ブロイラー)の下で使えると、メーカーがはっきり示している個別の器4個
- 器を運ぶ丈夫な天板
- グリルまたは上火の使えるオーブン
- オーブン用ミトンと、器ごとの乾いた耐熱マットか鍋敷き
グリルの下に入れる器は、グリルやブロイラーでの使用が可能とメーカーが明示しているものだけにしてください。「オーブン対応」とだけある器が、グリルにも使えるとは限りません。耐熱性の表示がない器は使わないでください。
選び方と代用
液体。 熱湯、鶏のブイヨン、牛のブイヨンの3つのうち1つを選びます。水なら玉ねぎの味が前に出て、塩加減も判断しやすくなります。鶏のブイヨンは旨みが加わり、牛のブイヨンは肉の風味がより強くなります。固形や顆粒のブイヨンを使う場合は、パッケージの表示に従い、製品によって塩分が違うので、塩を足す前に味を見てください。
バター。 有塩バターしかなくても使えますが、最後に加える塩は控えめにします。
パン。 厚すぎない(pas trop épaisses)田舎パンのスライスを使います。バゲットで代用できますが、形やスープの吸い方が変わり、食感も違ってきます。パンは先にトーストしません。
チーズ。 エメンタールでも、同じ120gでコンテと入れ替えられます。香りと塩気は変わります。溶けやすいグリュイエールも使えます。モッツァレラなどは、このスープの風味から離れてしまうため、主な代用としてはすすめません。
食べ方 ― 層を割って食べる

グラティネの楽しみは層にあります。スプーンの縁でチーズを割り、やわらかくなったパンを押し下げて、スープと玉ねぎを一緒にすくい上げます。玉ねぎの甘み、バターの丸み、軽いスープ、それを吸ったパン、塩気と香ばしさのあるチーズが、ひと口にいっぺんに届きます。
色が薄い、焦げそう、パンが沈む ― 困ったときの直し方
| 困りごと | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 玉ねぎがまだ白く、水っぽい | 火を通した時間がまだ足りない | 35分たったところで、透き通ってやわらかく、鍋に少し水分が残っているか確かめる。茶色い色は必要ない。このレシピでは求めていない |
| 鍋底が焦げそう | 火が強すぎる | 火を弱める。水100mlは最初に全量入れるので、同じ100mlを足さない。鍋が空だきになりそうなときに少し水を足すのは原典の外の調整で、必要な分だけにする |
| パンがスープに沈む | 器に注いでから焼くまでの時間が長い | 注いだらすぐ各器にパンとチーズをのせ、そのままオーブンへ移す |
| チーズに焼き色がつく前に器がとても熱くなる | グリルとの距離 | 色を絶えず見て、天板を熱源にどれだけ近づけるか加減する |
| スープの味が薄い | 液体に水を選んだ、または味つけが足りない | 最後に塩とこしょうで調える。次回は原典のほかの選択肢である鶏または牛のブイヨンを試す |
| スープが思ったより軽い | 小麦粉を入れていない | この編集版では想定どおり |
色については、Serious Eatsが別のレシピで比較した結果、玉ねぎを濃い茶色になるまで進めると苦みが出ることがあり、また火を通す時間は鍋、火力、量によって変わると報告しています。レシピも時間も違いますが、このレシピのように穏やかに、色づけずに進める方針の裏づけにはなります。
変化のつけ方 ― 一杯の表情が変わる
いずれも、上の基本レシピからの変更です。
- 水(この記事の基本)。 玉ねぎの味が前に出て、塩加減もしやすい。
- 鶏のブイヨン。 原典自身が挙げる代替。旨みが増す。製品の塩分に注意する。
- 牛のブイヨン。 原典が認める選択肢。肉の風味がより強くなる。
- チーズ。 同じ120gから始める。エメンタール(原典にある)やグリュイエール(原典からの変更)は、香りと塩気が変わる。
- パン。 田舎パンの代わりにバゲットなどを使うと、スープの吸い方、表面の焼け方、噛みごたえが変わる。
SIAL Parisによれば、水かブイヨンか、パンの扱い、チーズの量は、台所によっても地方によっても違います。ネルヴァルのパルメザンも、この一杯の仕上げ方がひとつではないことを思い出させてくれます。じっくり煮る煮込みから山のチーズ料理まで、ほかのフランス料理はフランスのページで見つかります。
残ったときと温め直し
このレシピについて確かめられた保存期間はないので、日数は示しません。スープを取っておきたいときは、パンとチーズをのせる前に取り分けてください。あとでグラティネにするとき、トッピングの状態も保ちやすくなります。
日本の厚生労働省の家庭での食中毒予防の案内に従うと、残ったものは清潔な浅い容器に小分けして早く冷まし、冷蔵庫に入れます。室温に長く置かないでください。温め直すときは、中心まで十分に、少なくとも75°Cになるまで、沸騰するまで加熱してから、新しいパンとチーズをのせて焼き色をつけます。
よくある質問
玉ねぎは濃い茶色になるまで炒める必要がありますか?
このレシピでは必要ありません。アル版では、玉ねぎをふたをして弱火で35〜40分蒸らし煮にし、色づけないように書かれています。ほかのレシピには、玉ねぎをもっと濃い色にするものもあり、Serious Eatsは濃くしすぎると苦みが出ることがあると述べています。決まった正解の色はありませんが、このスープが目指すのは、やわらかく甘い玉ねぎです。
牛のブイヨンは必須ですか?
いいえ。原典は、熱湯、鶏のブイヨン、牛のブイヨンのいずれでもよいとしています。水なら玉ねぎが主役になり、ブイヨンなら旨みの深みが加わります。
どのチーズを使えばよいですか?
原典はエメンタールかコンテとしています。このレシピはコンテを使い、同じ120gのエメンタールが主な代用です。手に入るほうを選んでください。
パンは先にトーストしますか?
原典ではしません。パンはトーストせずスープにのせ、沈む前にすぐ器ごと熱に入れます。ほかのレシピにはパンを先にトーストするものもありますが、それは別の作り方です。
作り置きはできますか?
このレシピでは、保存できる期間を確かめていません。先に作る場合は、パンとチーズとは別にして、上で述べたように浅い容器で冷まして冷蔵し、組み立てて焼き色をつける前に十分に温め直してください。
なぜ小麦粉を入れないのですか?
原典の作り方には小麦粉を加える記述がありますが、材料の一覧には分量がありません。推測したり、ほかのレシピから借りたりせず、この版では入れませんでした。結果は原典の厳密な再現ではなく、編集した、やや軽いスープになります。














