食卓に小鉢が並びます。温めたリフライドビーンズ、ほぐした鶏肉、千切りのレタス、トマト、アボカド、崩したチーズ。好みでサルサや酢漬けのハラペーニョも。その横には、ぱりっと平らなコーントスターダが積んであります。メキシコの料理家メリー・マルティネス(Mely Martínez)のレシピでは、12枚で4人分。トスターダは鍋で仕上げる料理ではなく、部品を用意して一枚ずつ重ねる料理です。Mexican Food Journalも、パーティーや集まりで具を前もって準備し、各自が好きなように盛る使い方を紹介しています。
この出し方は、便利だからというだけではありません。土台はぱりっとしていて、水気のある具を長く載せておくとしんなりします。温かい豆、冷たい野菜、とうもろこしの歯ざわり。この対比が、食べる直前に重ねることで初めて保たれます。ではトスターダとはそもそも何で、なぜこのレシピはコンロにほとんど仕事をさせないのでしょうか。
トスターダは、ぱりっとしたとうもろこしの台に具を重ねる料理
割ると音がする平らなとうもろこしの台。具をまとめる薄い温かい豆の層。最後に載せる冷たく新鮮な具。一枚ずつ、食べる直前に組み立てます。
トスターダは、ぱりっとしたとうもろこしの台に具を組み合わせた料理です。メキシコ文化省(Secretaría de Cultura)の文化情報システムは、これをアントヒート(antojito、軽食・つまみ)として説明しています。台は揚げたトルティーヤでも、コマル(comal、平らな鉄板)で焼いたものでも、オーブンで焼いたものでもよく、上の具は自由に組み合わせます。名前はスペイン語の「tostar(焼く、こんがりさせる)」に結びつきますが、背景に全国共通の決まったレシピがあるわけではありません。
同じ記録には幅広い例が並びます。リフライドビーンズとサルサだけの簡素な版、クレマ(crema)とチーズを足した版、さらにpata de res、tinga poblana、picadillo、pollo(鶏肉)といった具の名前。正しい具がひとつに決まった料理というより、ぱりっとした台と、食卓で組み合わせる具という型として捉えるほうが実情に近いでしょう。
なお、この記録の最終更新は2008年で、とうもろこしを土台にした食文化の一部として料理を説明しています。発祥の時期や考案者、ひとつの形が途切れず続いてきた歴史までは示していません。そのため、この記事も年表は作りません。
鶏肉版のレシピと、ティンガとの違い
このレシピは、メリー・マルティネスの「トスターダ・デ・ポージョ」に従っています。著書『The Mexican Home Kitchen』から許諾を得て掲載されたものです。鶏肉はすでに加熱してほぐした胸肉で、塩とこしょう、好みでガーリックパウダーとオニオンパウダーだけで味つけして重ねます。原典は鶏肉の加熱方法を指定しておらず、市販のロティサリーチキンの胸肉を使えば時間が省けるとしています。
鶏のティンガは別の料理です。ティンガ・デ・ポージョは、チポトレ、トマト、玉ねぎのソースで鶏肉を煮込みます。その煮込みをトスターダに載せることもできます。文化省の記録でもティンガとポージョは別々の具の例として並び、そこに出てくるtinga poblanaは牛肉をほぐしたものなので、鶏のティンガともまた違います。違いは具の作り方にあります。今回はソースを煮る工程がなく、用意した部品を重ねるだけです。
使う道具
- 豆を温める小鍋
- 豆を混ぜて塗るスプーン
- チーズを崩すフォーク(または指)
- 洗ったレタスの水気を切るざる、またはサラダスピナー
トスターダは市販品を使うので、トルティーヤプレスは要りません。
日本で材料を選ぶとき、食感が変わるところ
まず「コーントスターダ」を探してください。 平らなコーントルティーヤをすでにぱりっと仕上げたものです。柔らかいコーントルティーヤをそのまま使うと食感がまったく違ってしまいます。揚げたり焼いたりして自分で台を作るのは別のレシピなので、ここでは扱いません。小麦粉のトルティーヤも同じものではありません。
リフライドビーンズは缶やパウチで売られています。輸入食品店や通販で、この一般名で探せます。煮た豆を自分でつぶす方法もありますが、油脂、塩けやなめらかさが変わり、塗り広げたときの具合も違ってきます。
ケソ・フレスコとメキシカンクレマは専門的な食材です。ほかのフレッシュチーズを使う場合は、味が変わることを前提にしてください。クレマは任意なので、なくても作れます。
レタスは洗ってよく水を切ります。葉に水が残ると台に染みて、早くしんなりします。
トマトは薄切りでも角切りでもかまいません。水分がとても多いトマトなら、種を除くと台が湿りにくくなります。
しんなりする、崩れるときの対処
| 困りごと | おもな原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 台がしんなりした | 具の水分と時間 | 部品をすべて先に並べ、食べる直前に豆から重ねはじめる。水気の出た野菜を台に載せたまま置かない |
| 具が落ちる | 一度に盛りすぎ、豆が全面に届いていない | 豆を全面に薄く塗り、手で持って最初のひと口で割れる程度の軽い盛りにする |
| 鶏肉がしょっぱい | 市販の鶏肉にすでに味がついている | 原典は「塩は適量」なので、先に鶏肉の味を見て、塩は控えめにする |
| 豆が多く余る | 240gは用意する量で、1枚15gなら使うのは約180g | 余りは別によけ、台に全部載せない |
この料理は、すぐ食べることを前提にできています。組み立てたトスターダは置くと食感が損なわれるので、仕上がったものを保管せず、鶏肉、豆、野菜をそれぞれ別に、衛生的に扱ってください。
メキシコ各地の食卓と具の違い

メキシコ文化省の記録には、メキシコシティのタケリア(taquería)でのトスターダの描写があり、pata de res、tinga poblana、picadillo、polloといった具の例が出てきます。ここでのtinga poblanaは牛肉をほぐした具で、鶏のティンガと同じものとは考えられません。
ケレタロ州の学校給食マニュアルには、また違った姿が出てきます。ノパル(nopal、サボテンの葉)のトスターダは、焼いたトスターダに、ノパル、豆、レタス、トマト、玉ねぎ、パクチー、チーズを載せます。豆のトスターダは、家庭で作ったトスターダに、煮てつぶした豆と少量のチーズを載せます。どちらも学校で出す食事のレシピで、全国共通の標準ではなく、上の鶏肉版とは別の配合です。
こうして見比べると、具を固定して語るのは誤解のもとだとわかります。変わらないのは、ぱりっとしたとうもろこしの台、つなぐ層、そして地域や家庭や場面によって変わる具という構造です。
具を変える5つの案
- 鶏肉なし、豆とサルサとチーズ。 文化省の記録には、豆とサルサだけの簡素な版と、クレマとチーズを足した版があります。豆を塗り、味はサルサに任せます。
- ノパル。 ケレタロ州の学校給食マニュアルは、ノパルを豆と生野菜と合わせています。日本ではノパルが手に入りにくく、ほかの野菜に替えても同じものにはならないので、別の具と考えてください。
- 鶏のティンガ。 チポトレとトマトのソースで煮た鶏肉を具にします。上のレシピにはない煮込みの工程が加わります。
- pata de resなどの牛肉の具。 文化省の記録にメキシコシティの具として出てきます。別の下ごしらえが必要で、このレシピでは扱いません。
- サルサと酢漬けを別添えに。 サルサとハラペーニョ、にんじんの酢漬けを並べ、辛みと酸味を各自で調整します。メリー・マルティネスのレシピもMexican Food Journalも、この出し方を勧めています。
よくある質問
トスターダとは何ですか?
ぱりっとしたとうもろこしの台に具を組み合わせた、メキシコのアントヒートです。台は揚げたトルティーヤでも、コマルで焼いたものでも、オーブンで焼いたものでもかまいません。具は豆とサルサだけのものから、鶏肉や牛肉まで幅があります。
タコスとはどう違いますか?
トスターダは平らで硬い台を使い、具は包まず上に載せます。そのため、平らなまま手で持って食べますし、重ねる順番も大切になります。
市販のコーントスターダが見つからないときは?
柔らかいコーントルティーヤをそのまま使うと、食感が変わります。揚げたり焼いたりして自分で台を作るのは別の工程で、このレシピには含みません。
鶏肉はどう安全に用意すればよいですか?
このレシピは、市販のロティサリーチキンの胸肉のように、すでに加熱した鶏肉を使います。生から加熱する場合は、中心部を75℃以上で1分以上加熱し、いちばん厚い部分を温度計で確かめてください。生の鶏肉に使ったまな板やトングは、野菜や加熱済みの食品に近づけないようにします。
まとめ
おいしいトスターダの要点は4つです。ぱりっとしたとうもろこしの台、接着剤になる薄い豆の層、味つけした鶏肉と新鮮な野菜、そして食べる直前の組み立て。部品を小鉢に並べ、各自に重ねてもらい、この構造を守ったまま、地域や場面に合わせて具を変えてみてください。















