熱い鉄板の牛肉とチーズ、そして長いロール
熱い面で手早く焼いた薄切り牛肉。肉にからむように溶けたチーズ。ソースではなく肉に混ぜ込む玉ねぎ。中が柔らかい長いロール。この4つが、どんな追加の具よりも大切です。
薄切りの牛肉が熱い鉄板に広がり、縁から色づいていきます。炒めた玉ねぎが戻り、上でチーズがゆるみ、熱々のひと山が長いロールにするりと収まる。フィラデルフィアのチーズステーキの核は、薄切りまたは刻んだ牛肉、溶けたチーズ、お好みで玉ねぎ、そして長いロールです。
この料理の元祖を名乗る店は、ホットドッグの屋台で牛肉を焼き、玉ねぎと一緒にイタリアンロールにはさんだのが始まりだと説明しています。チーズは、同じ説明によると後から加わりました。いまではフィラデルフィアを代表する名物として旅行者に知られ、地元の人にとってはその場で食べても持ち帰ってもよい、気軽な食事でもあります。
家で作るとき、成否を分けるのは肉の薄さとパンの選び方の2点です。この記事では、その2点を軸に4人分の家庭版を組み立てます。分量は家庭のフライパン向けに編集部が定めた出発点であり、どこかの店の計量値でも、フィラデルフィアの店の味を正確に再現したものでもありません。
「Cheesesteak」は一語で綴ります。フィラデルフィア風だとはっきり示したいときは「Philly cheesesteak」とも呼ばれます。
具をのせるほど本格的になるわけではない
チーズステーキは、具を増やすほど「本場」に近づく料理ではありません。観光局のVisit Philadelphiaは、現地でよく見る形を、薄切りまたは刻んだリブアイ、溶けたチーズ、好みで揚げ玉ねぎ(炒め玉ねぎ)、長いロール、と説明しています。肉の刻み方、使うパン、のせるチーズは店ごとに違い、決まりごとと同じくらい個人の好みが物を言います。
この輪郭は、似たサンドとの違いも見せてくれます。ステーキを切って挟む一般的なアメリカのステーキサンド、冷たい具を重ねるニューヨークのデリ風サブ、ニューオーリンズのポーボーイは、いずれも長いパンのサンドイッチです。ただ、薄切り牛肉を熱い面で焼き、溶けたチーズと長くて柔らかいロールで受ける、というこの組み合わせとは別ものです。
この記事の基本形は玉ねぎ入りで、ピーマンもマッシュルームも入れません。ピーマンやきのこなどは、店や客が選ぶ追加として、あとの節で変化案に回しました。
牛肉・チーズ・パンの選び方

牛肉。 リブアイ(リブロース)は旨みと脂が出ます。Pat's King of Steaksが提供し、Food Networkに載ったレシピでも、使うのはリブアイまたはアイロール(eye roll)です。精肉店に薄切りを頼むのがいちばん簡単でしょう。しゃぶしゃぶ用などの極薄切りも使えますが、薄すぎて裂けることがあるので、数枚重ねて粗く刻みます。肩ロースのような別の部位に替えると、脂の量と噛み応えが変わります。かたまりを自分で薄切りにするなら、包丁が安定して入るところまで冷やす程度にとどめ、完全に凍った肉を無理に切らないでください。
チーズ。 現地の代表はチーズウィズ(Cheez Whiz)、白いアメリカンチーズ、プロボローネです。プロボローネは穏やかな味で、よく溶けて肉をまとめます。白いアメリカンチーズのようなプロセスチーズのスライスは手に入りやすく、とろけやすい一方、塩気と乳の風味が変わります。チーズウィズは現地の定番ですが、日本で常に手に入るとは限りません。チェダー系のチーズソースで代えることはできるものの、ウィズとは同じ味になりません。
パン。 皮が軽く、中が柔らかい長いサンドイッチロールかイタリアンロールを選びます。硬いバゲットは顎が疲れ、かじるたびに具が押し出されがちです。
使う道具
- 幅広のフライパン
- フライパンに合う蓋(ガラス蓋ならチーズの溶け具合が見える)
- 金属のへら、そして具をロールに移すための幅広のへら
- 玉ねぎとパンを切る包丁とまな板(生の牛肉に触れたものとは分ける)
- 生の牛肉用の皿と、炒めた玉ねぎ用の別の皿
- 中心温度を確かめる調理用温度計
- 包み用の無地の紙(なくてもかまいません)
肉が固い、パンが硬いときの立て直し
| 困りごと | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 肉が固い、乾く | 一度に入れすぎて蒸し焼きになった、または焼きすぎた | 次は数回に分けて広げて焼き、火が通ったらすぐ玉ねぎを戻す。固くなった肉を少量の水で蒸し直しても、ジューシーさは完全には戻らない |
| 肉が水っぽい | 冷凍肉を解凍したときの水分、または一度に入れすぎた | 肉の表面の水けを拭き、フライパンをよく温めて、少量ずつ焼く |
| パンが硬い | 硬いバゲットを使った | 長くて柔らかいロールを選び、切り口を軽く温める程度にする。パンを焼き固めない |
| チーズが溶けない | チーズが厚い、または蒸気が足りない | 薄いスライスにするか、蓋を短くかぶせる。水が多いとパンがしけるので、小さじ1ずつ加える |
| 玉ねぎが焦げる | 火が強い、油が少ない | 中火以下に落として油を少し足す。黒く焦げたところは苦みの原因なので取り除く |
肉が固くなるのは、たいてい厚切りのステーキのように焼いてしまったときで、広げて手早く焼けばほぼ防げます。ただし、焼く時間が短くてすむことは、中心まで熱が通る前に止めてよい理由にはなりません。
「wit」か「witout」か|現地の注文とチーズの選び方

フィラデルフィアでの注文は短く済みます。先にチーズを伝え、そのあと玉ねぎの有無を言います。「wit」は玉ねぎあり、「witout」は玉ねぎなしの意味です。「Whiz wit」ならチーズウィズで玉ねぎあり。この注文のしかたも、サンドそのものと並んで地元の食文化の一部です。
チーズの選び方は、家で作るサンドの味も変えます。
| チーズ | 味わい | 選ぶとき |
|---|---|---|
| プロボローネ | 溶けて肉をまとめる。穏やか | このレシピの基本形 |
| 白いアメリカンチーズ | 手に入りやすく、よく溶ける。塩気と乳の風味が異なる | 手早くむらなく溶かしたいとき |
| チーズウィズ | 現地の定番 | チェダー系ソースが近い代用だが、同じ味ではない |
玉ねぎも任意です。「witout」にするなら玉ねぎを抜いて、牛肉とチーズだけで食べます。
1930年の屋台から、街のサンドへ
チーズステーキの始まりは、一通りに語られているわけではありません。Pat's King of Steaksが自社で公開している歴史によると、Pat Olivieriが1930年にホットドッグの屋台で牛肉を焼き、玉ねぎと一緒にイタリアンロールにはさんで出し、チーズは後から加わったそうです。これは店自身の説明で、第三者が確かめたものではありません。Visit Philadelphiaも、Patを中心にした1930年の話を紹介しています。一方、ラトガース大学とともに公開されている地域史のエッセイ「Encyclopedia of Greater Philadelphia」は、HarryとPatのOlivieri兄弟の名を挙げています。
どの説明にも共通するのは、先にステーキのサンドがあり、チーズが後から加わったという流れです。誰が最初にチーズを加えたのか、それがいつだったのかは資料の間で定まっておらず、確定した史実ではなく地元の伝承として読むのがよいでしょう。
そこから、このサンドは店を通じて街の名物に育ちました。肉の刻み方、パン、チーズは店ごとに異なり、その違いが地元の好みと近所への誇りを支えています。家庭版が特定の店をなぞらなくてよいのも、そのためです。 アメリカ料理もあわせてご覧ください。
店によって注文の言い回しが違っても、「チーズを先に言い、玉ねぎの有無を添える」という順番はよく知られた約束ごとです。短い言葉で通じる注文は、気軽に立ち寄る食事らしさを映しています。
ピーマンは入れる? 基本形と変化を分ける
Visit Philadelphiaは、ピーマン、マッシュルーム、ケチャップをよくある追加として挙げる一方、ベルペッパー(ピーマン)は伝統的な基本形とは区別しています。Food Networkに載ったPat'sのレシピも、甘みのあるピーマンとマッシュルームは任意の扱いです。つまり、次の変化のどれも「唯一の正しい形」とは言えません。
| 変化 | 作り方 | 変わること |
|---|---|---|
| ウィズ風 | スライスの代わりに、チェダー系のチーズソースを具にかける | 「Whiz」の注文に近づくが、チーズウィズそのものとは違う |
| プロボローネ | 本文のレシピどおり | 穏やかなチーズが肉をまとめる |
| 白いアメリカンチーズ | プロボローネを白いアメリカンチーズのスライスに替える | よく溶ける。塩気と乳の風味が変わる |
| ピーマン入り | ピーマンを別に炒めて添える | 基本形から離れる。玉ねぎと牛肉の存在感が消えないよう別炒めにする |
| マッシュルーム入り | 炒めたマッシュルームを加える | 店や客が選ぶ追加で、基本形ではない |
食べ残しと温め直し
チーズステーキは、作ってすぐ食べるのが最もおいしい料理です。具が余ったら、浅い容器に小分けして急いで冷まし、冷蔵します。温め直すときは、中心まで十分に加熱します。具を詰めた状態で保存するより、パンと具を分けておくほうが、ロールがしけずにすみます。保存期間はここでは示せないので、余りを長く取っておく前提にせず、食べきれる分だけ作ってください。
よくある質問
リブアイ以外の部位でも作れますか?
作れますが、脂の量と噛み応えが変わります。Pat'sのレシピはリブアイかアイロールを挙げています。肩ロースのような部位もおいしく食べられますが、食感は違います。どの部位でも、薄く切ることがこのサンドの要です。
プロボローネが手に入らないときは?
白いアメリカンチーズはよく溶け、現地でも選ばれるチーズですが、塩気と乳の風味が変わります。チェダー系のチーズソースにすればウィズ風に近づきますが、チーズウィズと同じ味にはなりません。
ピーマンは必須ですか?
必須ではありません。フィラデルフィアの基本形は、牛肉、チーズ、お好みの玉ねぎ、ロールです。ピーマンはよくある追加のひとつです。
バゲットで代用できますか?
できますが、硬いバゲットはかみ切りにくく、具が押し出されがちです。中が柔らかい長いロールのほうが食べやすいでしょう。
作り置きはできますか?
作ってすぐ食べるのが基本です。具を多めに焼いたら、浅い容器で急いで冷まして冷蔵し、パンは別にしておきます。食べるときは具を中心まで十分に加熱してから、新しいロールに詰めてください。














