パナマの田舎の台所では、まきの火にかけた大鍋がことこと鳴っています。中には、庭先で育った硬い鶏と、皮をむいたごつごつの芋。湯気からは、ギザギザの葉をもつハーブ、クラントロの青く強い香りが立ちのぼります。洗礼式の祝いにも、パーティーの翌朝にも、熱を出した日にも出てくる一杯。パナマでどこにでもある国民的なスープ、サンコチョ・パナメーニョ(sancocho panameño)です。
使う材料はとても少なく、鶏、芋、クラントロ、オレガノ、にんにく、玉ねぎ、塩だけ。固形スープの素も色づけの調味料も使いません。日本で手に入りにくいのは、ニャメという大きなヤム芋とクラントロの2つですが、さといもとパクチーで、現地の素朴な味にかなり近づけます。
祝いの席にも、二日酔いの朝にも

2019年、パナマ市の創設500年を記念して、パナマ運河博物館で「映画のようなサンコチョ」という短いドキュメンタリーが上映されました。パナマのテレビ局TVNがEFE通信の記事として伝えたところでは、制作した料理人のネプタリオ・カブレラとフィフィタ・ビチリは、ホテルの料理人、都会の主婦、田舎の女性の3人が作るサンコチョを撮りました。台所はコンロでも、まきの火でも、材料は変わりません。鶏、クラントロ、オレガノ、玉ねぎ、塩、ニャメです。
ビチリは、サンコチョは国を代表する料理であるべきではないと言いながら、こう続けます。「二日酔いのときに何を飲む?サンコチョ。パーティーのあとは?サンコチョ。洗礼式では?サンコチョ」。あまりに何度も食卓に出てくるので、いつのまにか国を象徴する料理になった、というわけです。カブレラは、熱や風邪で弱っているときに飲ませる「スープ」こそサンコチョの一部だと話しています。
サンコチョの起源には、まだわからないことが多いそうです。同じ記事によると、ニャメがもともと南北アメリカにあったのか、アフリカから来た人々とともに伝わったのかには議論があります。カブレラは、最初のサンコチョは鶏ではなく牛肉だったかもしれないとも話しています。1519年のパナマ市創設のころ、鶏はスペイン人が薬のように扱う貴重なもので、牛肉は貧しい人々に回されていたからだといいます。
伝統の味を守るための「してはいけないこと」もはっきりしています。パナマの新聞パナマ・アメリカによると、料理人のナタナエル・マルティネスは、伝統的なサンコチョに必要なのは放し飼いの鶏、ニャメ、クラントロ、にんにく、玉ねぎだと話しています。とうもろこし、オトエ(さといもの仲間)、キャッサバを入れたら、それはもうパナマの定番のサンコチョではない。スープの素は使わず、「庭先の自然なスープ」にすること。しょうゆや色づけの調味料も入れないこと。そしてクラントロは、ニャメより先に入れないこと。
同じ記事は地域差にも触れています。チリキ県にはとうもろこしやオトエが入るサンコチョがあり、ボカス・デル・トーロ県には豚のしっぽやスペアリブで作るスープがあります。マルティネスによると、定番のサンコチョがよく作られるのはパナマ中部の県です。
途中で見つける、味の決め手
ハーブを入れる順番がおいしさを分ける

マルティネスが「クラントロはニャメより先に入れない」と言うのは、強い香りのハーブも長く煮ると香りが飛んでしまうからだと考えられます。この記事のレシピでも、芋がやわらかくなってからクラントロを入れ、最後に生の葉を散らしています。香りが二段階で重なり、パナマのサンコチョらしい青い香りがはっきり残ります。
オレガノは、スープに入れるのではなく鶏肉の下味にすり込みます。焼いたときに香りが立ち、そのまま煮汁に溶け出すので、乾燥オレガノでもハーブの香りが鶏肉の奥まで届きます。
スープの素を使わない分、塩の量が味を決めます。下味の塩は控えめにし、仕上げに小さじ1/2ずつ足しながら味を見てください。鶏と芋の甘みが感じられる手前で止めるのがちょうどよい加減です。
チリキ風や、親鶏で作る版

パナマ西部のチリキ県のように、とうもろこしやオトエを加える作り方もあります。アズ・ウィー・ソー・イットのレシピでは、パナマ市の家庭の作り方として、芋類にオトエ、ニャメ、キャッサバ、青いプランテンを組み合わせ、とうもろこしの輪切りを最後の15分で加えています。日本で作るなら、さといもに冷凍のとうもろこしやじゃがいもを足すと、具だくさんのスープになります。
より伝統に近づけたいなら、親鶏(ひね鶏)を使ってください。パナマの伝統のサンコチョは、庭先で育った硬い鶏、ガジーナ・デ・パティオで作ります。肉は硬めですが、長く煮るほどスープに濃いうまみが出ます。親鶏は精肉店や通販で骨付きのぶつ切りが手に入ります。
食べ方

深めの器に鶏肉とさといもを盛り、熱いスープをたっぷり注いで、取り分けておいたクラントロを散らします。日本の食卓では、白いごはんを添えて、スープをかけながら食べるのもおすすめです。
同じ名前の料理でも、国が変われば中身が変わります。コロンビアのサンコチョ・デ・ガジーナは、とうもろこしやキャッサバ、プランテンを入れる具だくさんの版で、パナマの料理人が「入れない」と言うものが主役です。中米の鶏の煮込みなら、グアテマラのホコンもあわせてどうぞ。
よくある質問

クラントロとパクチーは同じものですか?
別の植物ですが、香りはよく似ています。クラントロ(ノコギリコリアンダー)のほうが葉が硬く、香りが強いので、パクチーで代用するときは量を1.5倍に増やしてください。
鶏むね肉でも作れますか?
作れますが、骨付き肉のほうがスープにうまみが出ます。むね肉を使う場合は、手順3で15分煮たら取り出しておき、さといもが煮えたら戻して温めると、ぱさつきにくくなります。
作り置きできますか?
アズ・ウィー・ソー・イットは、時間がたつほど味がなじみ、冷凍もできると書いています。冷蔵や冷凍したものは、鍋で沸騰するまで温め直してください。保存日数のはっきりした目安は示せないので、早めに食べきりましょう。
辛い料理ですか?
辛くありません。唐辛子は入らず、クラントロとオレガノの香りが主役です。辛さがほしい人は、食卓で唐辛子のソースを少し足してください。











