赤ワインの湯気の中で、牛肉がほぐれるまで
厚手の鍋でベーコンの脂が溶け出し、角切りの牛肉が数回に分けて焼き色をまとっていきます。そこへ赤ワインを注ぐと、鍋底に張りついた茶色い焼き付きがほどけていきます。ふたをして火を限界まで弱めると、鍋の縁で小さな泡が静かに上がり続け、台所にワインとベーコンの香りが満ちてきます。この静かな煮込みこそがブッフ・ブルギニョンです。
牛肉の深い焼き色、辛口赤ワインの香り、弱火で煮たあとフォークでほぐれる肉。そして最後まで形を保つ小玉ねぎとマッシュルーム。
この記事のレシピは4人分です。下準備に約45分、煮込みに2〜2時間30分ほどを見込みますが、牛肉の部位や鍋、コンロによって前後します。コツは三つだけです。肉の水気をふいてしっかり焼くこと、ぐらぐら沸かさず静かな煮立ちを保つこと、そして時計ではなくフォークで繊維がほぐれるかどうかで煮上がりを見ることです。
フランス語では bœuf bourguignon、boeuf bourguignon とも書きます。英語では Beef Burgundy と呼ばれることもあります。bourguignon は「ブルゴーニュ風の」という意味の形容です。
ブルゴーニュの赤ワインと牛肉
フランスの公式観光サイト France.fr は、ブルゴーニュの料理には赤ワインが広く使われると説明し、ブッフ・ブルギニョンを地方を代表する料理のひとつとして紹介しています。地元のシャロレー牛とワインを結びつけ、秋冬の料理として挙げています。ディジョンの観光局も、日曜日の伝統料理であり、シャロレー牛、ブルゴーニュの赤ワイン、きのこ、小玉ねぎ、ラルドン(細切りのベーコン)を合わせた地方の名物だと説明しています。
牛肉と赤ワインがこの地方の象徴的な組み合わせだということが、ワインで煮る料理になる理由の背景です。ただし、どの家庭でもシャロレー牛やブルゴーニュ産のワインが必須というわけではありません。ブルゴーニュはあくまで代表的な例で、地方全体にひとつの決まった形があることを示すものではありません。
同じ名前でも、配合はひとつではない
この名前で公開されているレシピは、配合がかなり違います。France.fr の4人分は、牛肩肉1kg、赤ワイン400ml、仔牛のだし400ml、ベーコン・きのこ・小玉ねぎが各150gで、ふたをして180℃のオーブンで約2時間加熱します。Larousse のレシピは、牛肉1kgをワイン1本に最低3時間、または一晩漬け込み、ラルドン150g、マッシュルーム200gを使って2時間30分煮ます。オータン観光局が載せている地元レストランの料理人のレシピは、牛肉1.5kgにワイン1.5Lで、弱火で2〜2時間30分煮込みます。
こうした違いは、人数や鍋、料理人ごとの作り方の差によるもので、地方ごとの流派の違いを示すものではありません。下の分量は、France.fr の配合を土台に、香味野菜と調味料を足して家庭で組み立てやすくした一案です。唯一の正解ではなく、ひとつのよい作り方として受け取ってください。
この料理に使える食材・調味料
日本での選び方と代わりの材料
牛肉。 肩やすねなど、煮込み向きの部位を選びます。牛肩肉、シチュー用に売られている肩、すね肉が使えます。脂や筋の量は部位で違うので、柔らかくなるまでの時間も変わります。赤身のステーキ用の肉には替えないでください。
赤ワイン。 ブルゴーニュの赤が手に入れば料理の文脈には合いますが、必須ではありません。飲んでおいしい辛口の赤を選びます。甘口のワインや塩分入りの料理用ワインでは味が変わります。高価な一本を用意するより、飲める辛口を使い、だしと塩を控えめに調整するほうが大切です。
だし。 仔牛のだしがなければ、無塩または低塩のビーフストックを使います。うま味の方向が少し変わります。水に顆粒や固形のコンソメを溶かす場合は、塩気や香りが強く出やすいので、製品の表示を見て最後に塩を加減してください。
ベーコン。 ブロックベーコンを細切りにして使うと合います。燻製香の強いものは、ワインの香りと競ってしまいます。
小玉ねぎ。 ペコロスが見つからなければ、小ぶりの玉ねぎを大きめに切って使います。煮崩れしやすいので、別に焼いて最後に加えてください。
マッシュルーム。 ブラウンマッシュルームも使えます。しいたけは香りが強く、別の料理に寄ってしまうので、同じ役割の代わりにはなりません。
薄力粉。 グルテンを避けたい場合は粉を省き、最後にソースを煮詰めます。片栗粉やコーンスターチは粘りが違い、ソースが透明でつややかになるため、同量では置き換えないでください。
バター。 付け合わせを焼くときは植物油でも作れますが、乳の香りは減ります。
タイム。 乾燥タイムを使う場合は少量にします。製品によって差があり、決まった換算はありません。
塩。 ベーコンとだしは塩気の幅が大きいので、最初は上の3gにとどめ、最終の味つけは最後に決めます。感覚で最初から多く入れないでください。
使う道具
- ふたつきの厚手の鍋(ホーロー鋳物鍋など)
- 付け合わせ用のフライパン
- 木べら
- キッチンペーパー
- 小玉ねぎの火通りを見る竹串
- 肉の柔らかさを見るフォーク
- 温めておく深皿
仕上がりの目安は、肉がフォークでほぐれる柔らかさです。このレシピでは中心温度による安全基準は示していません。柔らかさを安全の保証とは読まないでください。ふたつきの厚手の鍋をすでに持っているなら、買い足す必要はありません。厚い鍋は、長い煮込みの間、弱火を安定して保ちやすいというだけです。
失敗したときの戻し方
| 症状 | 確認すること | 直し方 |
|---|---|---|
| 肉が硬い | 液体が少ない、または強く沸いていないか | 液体を少し残し、弱火でさらに煮る |
| ソースが脂っぽい | 表面に脂がたまっていないか | 表面の脂をすくう |
| ソースの酸味が立つ | 煮込みが足りていないか | さらに煮て、塩を確かめ、少量のバターで丸める |
| ソースが粉っぽい | 粉に火が通っていないか | 液体に粉を直接足さない。具を取り出し、ソースを煮立てて十分に火を通す |
| ソースがゆるい | 液体が多く残っていないか | 具を取り出し、数分煮詰める |
| ソースが濃すぎる | 煮詰めすぎていないか | 湯か無塩のだしを少しずつ足す |
肉が硬いときに、強火で急がないことが大事です。ソースの調整は、いつも具を取り出してからのほうが加減しやすくなります。
前日に作って、味をなじませる
オータン観光局は、前の日に作って温め直すことを勧めています。肉が乾かないよう、ソースに浸したままにする助言も載せています。
前日に作る場合は、常温に長く置かず、浅い容器に小分けしてすぐ冷蔵庫に入れます。翌日は冷えて表面に脂が固まるので、すくい取りやすくなります。温め直すときは鍋で全体が十分に熱くなるまで加熱し、食べる分だけ温めてください。食べ残しも清潔な容器に入れて、すぐ冷蔵します。
米国政府の食品安全サイト FoodSafety.gov は、スープやシチューの目安として冷蔵で約3〜4日、冷凍で2〜3か月を挙げています。これは米国の目安で、日本でも通用する保存期限の保証ではありません。早く冷まし、小分けにして冷蔵し、早めに食べ切ってください。
付け合わせと食べ方
ゆでたり蒸したりしたじゃがいも、生パスタや幅広の麺、パンなど、ソースを受け止めるものなら何でも合います。Larousse は蒸しじゃがいもか生パスタを挙げていますが、どれも必須の付け合わせではありません。
オータン観光局は、残ったソースの地元ならではの使い道として、卵を赤ワインソースで煮たウフ・アン・ムーレット(œufs en meurette)にも触れています。
長く煮込むこの料理は、冬の休日や人が集まる食卓に合います。特定の祝祭と結びついた料理というわけではありません。ほかのフランスの煮込みと食べ比べるなら、澄んだ牛肉のブイヨンのポトフ、豆と肉を煮る南西フランスのカスレ、野菜と肉のガルビュールがあります。赤ワインでなくビールで煮る隣国の牛肉煮込みには、ベルギーのカルボナードがあります。
アレンジ
ソースごと一晩冷やし、翌日、表面に固まった脂を取ってから温め直します。オータン観光局の「前日に作る」助言にならったやり方です。
オーブン煮込み。 France.fr にならい、ふたつきの耐熱鍋を使い、約180℃で約2時間を出発点にして、肉の柔らかさを確かめます。鍋によって仕上がりに差が出ます。
マリネして作る。 Larousse のように、牛肉をワインと香味野菜に最低3時間、または一晩漬けます。焼く前に肉の水気をふき、漬け汁は煮立ててから加えます。液体の量は調整が必要です。
牛ほほ肉。 オータンの料理人は、より濃厚な仕上がりになるとしてほほ肉を勧めています。筋の状態によっては、時間が長くかかります。
付け合わせを変える。 じゃがいも、生パスタ、パンから、ソースを吸わせたいものを選んでください。
ワインなしで。 酸味のある赤ぶどう果汁を使えば、同じ趣旨の別の料理になりますが、同等の代わりにはならず、味は変わります。別のアレンジとして考えてください。
現代的なレシピとしては Serious Eats のものもあり、牛肉の部位、マリネの要否、野菜の火の通し方、ワインの選び方などが論点として取り上げられています。
よくある質問
ブルゴーニュ産のワインでないと作れませんか?
いいえ。飲んでおいしい辛口の赤ワインで作ってください。産地や品種による香りの違いも楽しみのひとつです。高価な一本が必要という根拠はありません。
牛肉がまだ硬いときはどうしますか?
ぐらぐら沸かさないでください。液体を少し残し、弱火でさらに煮ます。レシピの時間より、肉のほぐれ方を目安にしてください。
マリネは必要ですか?
必須ではありません。Larousse は先に漬け込みますが、France.fr やオータンのレシピのように、焼いてから直接ワインとだしで煮るものもあります。
前日に作れますか?
作れます。早く冷まして冷蔵し、食べる分だけ全体が熱くなるまで温め直してください。常温に置かないでください。
マッシュルームはいつ入れますか?
別に焼いて最後に加えます。形と食感が残ります。
赤ワインを避けたいときはどうしますか?
同じ料理になる代わりはありません。ぶどう果汁を使えば、味の違う別アレンジになります。また、ワインを使う場合は、長く煮込んでもアルコールがどれだけ残るかはわかっていません。
















