大きな銅の鍋から湯気が上がり、ゆで上がったたこの足が引き上げられます。料理人ははさみで足をぱちぱちと輪切りにし、木の皿へ落としていきます。粗塩をひとつまみ、赤いパプリカをふって、オリーブオイルを回しかけたら出来上がり。スペイン北西部ガリシアの市(feira)や祭りに欠かせないプルポ・ア・フェイラです。ガリシア語ではポルボ・ア・フェイラ(polbo á feira)、スペインのほかの地方ではプルポ・ア・ラ・ガジェガ(ガリシア風のたこ)とも呼ばれます。
市の日に、銅の鍋でたこがゆでられる

この料理を作る人は、ガリシア語でプルペイラ(pulpeira)、男性ならプルペイロ(pulpeiro)と呼ばれます。スペインの料理メディアDirecto al Paladarに登場するオウレンセ県カルバジーノ(O Carballiño)出身のプルペイロ、パコ・ゴメスさんは一族4代目で、市から市へ渡り歩く移動のプルペイロとして仕事を始めたと紹介されています。たこは港町の料理と思われがちですが、この料理の中心地は内陸のオウレンセ県です。
名前の由来は、同じ記事で次のように説明されています。16世紀初めごろ、カルバジーノでは大きな家畜市が開かれていて、近くのオセイラ修道院(Mosteiro de Oseira)の修道士たちが、保存のために干してあったたこをゆでて柔らかくし、切って塩と油をかけて市の客にふるまった。それが「市のたこ」、ア・フェイラの始まりだというのです。その頃はまだパプリカは使っていなかったとも書かれています。ただしこれは料理の世界で語り継がれている由来話で、年代を裏付ける一次資料までは確認できていません。伝承として楽しむくらいの距離感がちょうどよさそうです。
カルバジーノでは毎年8月に「たこ祭り」(Festa do Polbo)が開かれます。ガリシア自治州政府(Xunta de Galicia)の2025年6月の発表では、この年が第63回で、8月10日の開催でした。祭りは国際観光重要祭(Interese Turístico Internacional)に指定されています。
パコ・ゴメスさんの説明では、スペインで食べられているたこの多くはモロッコやモーリタニアから来ていて、冬はモロッコのダフラ産、夏はモーリタニア産がよいそうです。昔は石に叩きつけて身を柔らかくしていましたが、いまは冷凍してから冷蔵庫でゆっくり解凍するのがその代わりになっています。日本でも冷凍の生だこが手に入るので、このやり方はそのまま台所に持ち込めます。
この料理に使える食材・調味料
市の味を、日本の台所に連れてくる

日本のたこ料理は、塩もみでぬめりを取り、ゆで上がったら冷まして酢の物や刺身にするのが一般的です。ガリシアのプルポ・ア・フェイラは逆で、温かいうちに切ってすぐ食べるのが身上です。冷めると身が締まって弾力が強くなるので、ゆで上がりから盛り付けまでを途切れずに進めるのがいちばんのコツになります。
市販のゆでだこで作る場合は、足を数秒だけ熱湯にくぐらせて温めます。生だこから作るときほど身がふっくらとはしませんが、パプリカとオリーブオイルの香りは同じように楽しめます。ガリシアではカチェロスのほかにパンを添えるのも定番です。日本ならバゲットを添えるだけで、皿に残った赤いオイルまで無駄なく食べられます。
よくある質問

生のたこを冷凍しないで使ってもよいですか?
使えますが、身が硬くなりやすくなります。ガリシアのプルペイロも、昔は叩いて柔らかくしていた工程の代わりに、冷凍してから冷蔵庫でゆっくり解凍する方法を勧めています。生のたこを買ったら、一度冷凍してから使うのが近道です。
たこが1kgしかない場合、ゆで時間は?
2kgで約30分が目安なので、小さいたこは短くなります。時間で決めず、20分前後から太い足に竹串を刺し、ゆでたじゃがいもくらいの手応えになったら火を止めてください。
パプリカパウダーは燻製でないものでもよいですか?
使えます。燻製でないパプリカは香りが穏やかで、たこそのものの味が前に出ます。スモークパプリカを使うと、スペインのピメントンに近い香ばしさが加わります。
残ったらどうしますか?
ゆでたたこは冷蔵庫で保存し、早めに食べ切ってください。食べるときは熱湯に数秒くぐらせて温め直し、塩・パプリカ・オリーブオイルをかけ直すと、作りたてに近い味に戻ります。
















