トルコの午後、湯気の立つ小さなグラスの紅茶(çay)と、金色の表面をしたケーキの皿。ナイフを入れると、黄色い粒感のある断面からシロップがじんわりにじみます。トルココーヒーを合わせる人もいるでしょう。一口目に広がるのは、レモンシロップを含んだ生地のしっとりした甘さです。
このケーキがレヴァニ(Revani)です。セモリナ粉を使うシロップ菓子で、今回の生地には卵と無糖ヨーグルトを入れます。クリームを塗るケーキではなく、焼いたあとにシロップを吸わせて初めて完成します。要点は粉の粒感とシロップの温度で、普通の薄力粉だけでは同じ食感になりません。温かいケーキに冷ましたシロップを合わせるのが、この菓子の筋道です。日本の台所では、20×27cmの底が外れない浅い耐熱型を1台用意してください。12切れ分で、焼成は25〜30分、シロップを含ませて冷ます約1時間を入れても、全体で約2時間5分です。
トルコの食卓から、国境を越えるシロップ菓子へ

トルコには、焼き上がった生地にシロップを含ませる菓子のまとまりがあって、レヴァニもその一つです。一枚の型で焼いてから四角やひし形に切り、皿に取り分けます。薄い生地を何枚も重ねるバクラヴァとは、作業も断面もまるで違います。切り分けて楽しむシロップ菓子として、家庭のお茶の時間にも、食後の皿にも顔を出します。ラマダンの時期にも食べられますが、その季節だけの菓子というわけではありません。
細かな粒を残したセモリナと卵のふくらみが骨組みになり、そこへヨーグルトの酸味が加わります。甘い液体は、その生地がしっかり受け止めます。
名前の由来には、いくつか説明があります。オスマン期から親しまれた菓子として紹介されますが、発祥の年も発明者も、今回の資料では確定できません。トルコ料理家のOzlem Warrenは、エレバン征服と名前を結びつける説を紹介しています。Cooking Gorgeousはその説に加えて、16世紀の詩人Revânîに由来するという説も挙げています。どちらかに決めず、二つの説があるとだけ覚えておけば十分でしょう。それより、家庭ごとに変わる香りや地域差のほうが、台所では面白い話です。
ギリシャにも、ラヴァニ/レヴァニ(ravani/revani)と呼ばれる菓子があります。北部のヴェリアの菓子としても知られています。Cooking Gorgeousは、ヨーグルトを入れるトルコの型と、ギリシャで省くことの多い型を比べています。一方で、ギリシャの料理サイト30 days of Greek foodの公開配合にはヨーグルトが入っています。ですから、国名だけでヨーグルトの有無は決められません。国名よりも配合の違いが、家庭ごと、レシピごとにあるのです。ギリシャ版は必ず蜂蜜、トルコ版は必ず花の香り、と決めつけるのも早合点でしょう。トルコの中でも、レモンを使う家とオレンジを使う家があり、油脂やセモリナの粒度も違います。今回は、レモンと油の生地で作ります。
エジプトのバスブーサにも、セモリナとシロップの組み合わせがあります。ただ、今回のレヴァニは卵を泡立てて作る生地です。バスブーサには卵なしの配合が多く、卵入りレヴァニのふくらみとは食感が違います(すべての地域のバスブーサが卵なしだと言うつもりはありません)。同じ菓子の別名と考えず、泡立て、粒感、香りの違いを作り比べる料理として楽しんでみてください。
レヴァニの香りづけには、レモンのほかに、オレンジの皮、ローズウォーター、オレンジフラワーウォーターを使う作例があります。挽いたピスタチオやココナッツを表面に飾る食べ方もありますが、必須ではありません。今回の基本形はレモンだけで、ナッツも花の香りもココナッツも足しません。下のアレンジは、基本の配合とは分けて読んでください。
買い出しでまず向き合うのは粉です。セモリナ粉はデュラム小麦からできていて、日本ではパスタ用として見つかるものもあります。粒度は商品の説明で確かめましょう。トルコ語ではirmik(イルミック)と呼ばれ、セモリナ粉を探す手掛かりになります。今回の家庭向け配合は、中挽き程度の粒感が目安です。Ozlem Warrenの作例は粗挽き、Cooking Gorgeousの作例は中挽きで、粒度だけで本物かどうかが決まるわけではありません。細挽きは口当たりが細かくなり、粗いものは粒感が強く出ます。粒度の違いは、焼き時間を延ばして帳尻を合わせる話ではありません。セモリナ粉の粒度を確認してから選んでください。卵、無糖ヨーグルト、砂糖、レモン、薄力粉は一般のスーパーで買えるものを組み合わせます。セモリナ粉は製菓材料店や通販で、種類を見比べてみてください。
途中で見つける、味の決め手
べたつきと乾燥は、切る前に見分ける

目指すのは、表面が少しつやを帯び、断面は湿っていても四角い形が保てる状態です。ほろほろと粒がほどけることと、液体で崩れることは別のものです。冷ましてから断面を見るようにして、完全に冷めてから一切れを確かめてください。シロップを入れた直後だけを見て失敗と決めず、吸収を待ちます。ただし、保存の時間制限を越えて室温で待つことはしないでください。
| 起きたこと | 考えられる原因 | 戻し方・次に変える点 |
|---|---|---|
| 底にシロップが残る | 一度に注いだ、吸収待ちが短い、型の大きさが違う | 追加を止める。冷蔵庫でなじませ、盛る時は余分な液体をすくわない |
| 生地がべたべたして崩れる | 両方熱いまま合わせた、中心が焼けていない | 冷蔵して形が落ち着くか確認。生焼けならそのまま食べず、次回は焼成中に竹串確認 |
| 中央が乾いて端だけ甘い | シロップを端だけへ注いだ、焼きすぎた | 残してあるシロップを乾いた場所へ少量ずつ追加。余分な水だけをかけない |
| 粉っぽい塊がある | 粉の混ぜむら | 焼いた後には混ぜ直せない。次回は粉類を合わせてから加える |
| 表面だけ濃く焼ける | 上火が強い、型が深く中心の加熱が遅い | 焼成中にホイルで覆い、中央の火通りを確認する |
焼けたケーキが少し乾いているなら、今回作った残りのシロップを、小さじ1(5ml)ずつ乾いた面に加えて、数分待って様子を見ます。これは家庭での調整目安です。追加は少量ずつにしてください。一度全部吸わせたあとに大量の液体を足すと、外側だけが過湿になりますし、水だけをかけるのも避けます。焦げ味、粉の塊、明らかな生焼けは、甘みでは消せません。そういうケーキを無理に食べられる状態と考えないでください。
よくある質問
セモリナ粉を薄力粉だけに替えられますか。 全量を替えると、粒感も吸収の仕方も変わり、同じレヴァニにはなりません。細挽きのデュラムセモリナは細かい食感に寄りますが、原料が小麦でも薄力粉とは別のものです。袋の原材料と粒度を確かめてください。
ヨーグルトは水切りしますか。 基本配合の225gは、普通の無糖プレーンヨーグルトで、水切りは要りません。水切りヨーグルトを同じ重さで置き換えると、水分量が変わります。水や牛乳を推測で足さず、通常品でそろえてください。
辛さや花の香りはありますか。 基本配合には、唐辛子も花の香りの調味料も入りません。香るのはレモンと、少量のバニラです。花の香りの作例はありますが、すべての地域のレヴァニがその香りというわけではありません。香りが苦手なら、基本のレモンで作れます。
前日に作って客に出せますか。 シロップをなじませたあと冷蔵すれば、翌日の食卓に回せます。持ち歩きや、室温での長時間の展示は別の条件です。食べる分だけ取り出して、残りは冷蔵のままにしてください。
紅茶と合わせる食卓、翌日に残す分

トルコでは、紅茶やトルココーヒーと合わせて食べます。日本の台所なら、無糖の飲み物を添える組み合わせがおすすめです。無糖の紅茶やコーヒーが合います。生地にシロップをたっぷり含んでいるので、まずは一切れを小さく切って。皿に追加のシロップを大量に注ぐのは控えてください。基本形はナッツなしです。アイスや飾りを添えると、別の甘さとアレルゲンが加わります。
香りを変える五つのアレンジ
次の表は、レモンの基本形が作れるようになってから試す、家庭向けの提案です。現地の各地域を代表する配合ではありません。シロップの量と砂糖は固定して、変える場所を一つずつにすると、元の食感との違いが見えやすくなります。ローズウォーターとオレンジフラワーウォーターを使うなら、食品用に限り、化粧品用は使わないでください。
| アレンジ | 変える分量・場所 | 基本形との違い |
|---|---|---|
| オレンジの皮 | レモンの皮3gをオレンジの皮3gへ。レモン汁は保持 | 酸味は残し、皮の香りを変える |
| ピスタチオ仕上げ | 無塩ピスタチオ12gを刻み、切った後に散らす | 緑色と歯ごたえを足す。ナッツの表示を確認 |
| ココナッツ仕上げ | 無糖乾燥ココナッツ12gを切った後に散らす | 生地を変えずに表面の風味を足す |
| ローズの香り | 冷ましたシロップへ食品用ローズウォーター1mlから。容器の用量表示を優先 | レモンを残して花香を加える。強い製品はさらに少量 |
| アイスを添える | 一切れにバニラアイス20gを食べる直前に添える | 冷たさと乳の風味を足す。残りのケーキへ一緒に保存しない |
余ったセモリナ粉でも、トルコ菓子が作れます。イルミック・ヘルヴァは、焼くケーキではなく、粉を炒めて作る菓子です。シロップ菓子のもう一つの食感を知りたいなら、薄い生地を重ねるバクラヴァもどうぞ。下のリンクは、粉の使い残しと、シロップ菓子の作り比べという、二つの疑問につながっています。
保存と作り置き
シロップを含ませたあとは、冷蔵保存を基本にするのが安心です。清潔なふた付き容器に入れ、冷蔵庫は4℃以下に保ちます。今回の家庭向けの目安は、冷蔵で2〜3日、冷凍は一切れずつ包んで2週間です。保存できる日数の保証ではなく、品質を優先した短めの目安として受け取ってください。冷凍するときは、冷めてから密封し、冷蔵庫で一晩かけて解凍します。出したり戻したりは繰り返さないでください。
米国食品医薬品局FDAの、一般的な要冷蔵食品の指針では、室温に置くのは2時間以内、気温が32℃を超えるときは1時間以内とされています。冷蔵庫は4℃以下です。この配合は卵と乳を使い、焼成後に水分も加えるため、常温での長期保存はすすめません。シロップを吸わせる時間も、室温にある時間に含めます。暑い台所では、完全に冷えるまで室温で待たず、扱える程度に粗熱を取ったら、浅い容器のまま冷蔵へ進みましょう。カビや異臭があれば廃棄してください。見た目や匂いだけで安全とは判断できません。生焼けのケーキは味見しないでください。
栄養の目安
基本の材料を12等分した一切れで、概算270kcal、たんぱく質4g、脂質5g、炭水化物54gです。砂糖やシロップの残り方、型用の油の残量、切り分け方で変わる、計算上の目安です。ナッツ、ココナッツ、アイスの追加は含みません。実測値ではなく、健康効果をうたうものでもありません。













