コーントルティーヤが熱い油にさっとくぐり、続いて乾燥唐辛子の深い赤いソースにくぐります。チーズとすりおろした玉ねぎを包んで巻き、巻き終わりを下にして皿に並べたら、上にもう一度チーズと玉ねぎを散らします。横には同じソースで火を通した角切りのじゃがいも、さらに刻んだレタスとトマト。これが、メキシコ北部コアウイラ州(州都はサルティヨ)の文化局が出した伝統的な料理人たちのレシピ集に載っている enchiladas rojas estilo Saltillo、サルティヨ風の赤いエンチラーダです。
エンチラーダは幅広い料理の総称で、この記事が追うのはそのうちのひとつの形です。トマティーヨを使う緑のエンチラーダ(enchiladas verdes)とは別の料理です。色と風味を作るのは乾燥唐辛子で、中身は肉ではなくチーズ。オーブンは使わず、トルティーヤを揚げ、ソースに通し、包んで、そのまま食卓へ出します。
乾燥唐辛子を焼いて作ったなめらかな赤いソース、巻けるやわらかさを保ったコーントルティーヤ、玉ねぎで引き締めた塩気のあるチーズ、そして付け合わせのじゃがいも。最後にすべてを合わせて、すぐ食卓に出します。
「赤いエンチラーダ」はひとつの型ではない

まず前提として、エンチラーダ・ロハスに決まったひとつのレシピはありません。 メキシコ料理の百科事典であるラルース(Larousse)の辞典は、赤いエンチラーダを中部から北部にかけて広く見られる料理として説明し、サカテカス、グアナフアト、アグアスカリエンテスなどの州にも及ぶとしています。そのうえで、同じ名前でも地域によって中身がまるで違うと述べています。トルティーヤを巻くのか折るのか、そもそも具を詰めるのか、何を添えるのか、という違いです。
サルティヨの中にも複数の型があります。この記事で作るコアウイラ州のレシピは、できあがったコーントルティーヤに唐辛子のソースをまとわせる形です。一方でラルースは、アンチョ唐辛子をトウモロコシ粉と小麦粉の生地に練り込み、生地そのものを赤く染めてから短く揚げる、別のサルティヨ風も紹介しています。作り方がまったく違うので、ここでは比較のために触れるだけにします。
| 地域・出典 | 料理の形 | このレシピとの関係 |
|---|---|---|
| コアウイラ州サルティヨ(州文化局のレシピ集) | コーントルティーヤを揚げ、アンチョとパシージャのソースに通し、チーズと玉ねぎを詰めて巻く。じゃがいも、レタス、トマトを添える | この記事のレシピ |
| サルティヨ(ラルース) | アンチョをトウモロコシ粉と小麦粉の生地に練り込み、短く揚げる | 別の型。この手順には混ぜない |
| タマウリパス州(ラルース) | ソースをまとわせたトルティーヤにチーズと玉ねぎをのせる。具を巻かない | 地域の比較例 |
| ワステカ地方(ラルース) | 大きなトルティーヤを折り、セシーナ(塩漬けして干した肉)と食べる | 地域の比較例 |
ラルースには、コリマ、プエブラ、サン・ルイス・ポトシなどの例も挙がっていて、揚げ方、折り方、具、飾りが少しずつ違います。家庭ごとの違いも大きく、料理家のメリー・マルティネス(Mely Martínez)は、赤いエンチラーダは「どの家庭も自分流に作る料理」だと書いています。グアヒージョとアンチョのソースは配合を調整でき、モレリア風にはじゃがいもとにんじんを添える皿もあるそうです。これらの現代の地域ごとの形より先の起源については、ここでは何も断定しません。
同じ「サルティヨ風」でも、唐辛子をソースにする型と生地に練り込む型があります。レシピを探すときは、材料に「トウモロコシ粉と小麦粉の生地」とあるかどうかで、どちらの型かを見分けられます。
この料理に使える食材・調味料
唐辛子とチーズ、油の選び方
探す価値があるのは乾燥唐辛子です。 ラテンアメリカ食材の店や専門店で、スペイン語の名前、つまり chile ancho と chile pasilla で探してください。チリパウダーや生の唐辛子は同じものの代わりにはならず、ソースの香り、色、口当たりが変わります。1種類だけで作る場合も香りが変わるので、できれば両方そろえてください。
トルティーヤは小麦粉ではなくコーン。 このレシピはコーントルティーヤを指定しています。トウモロコシの風味と、熱い油やソースに入れたときの様子が、この料理の前提だからです。
チーズは2種類で、役目が違います。 パネラは塩気と食感を与えるフレッシュチーズ、アサデロは溶けるチーズです。手に入らなければ、フレッシュチーズと、よく溶けるチーズを組み合わせて同じ2役を持たせるのが、家庭向けの代わりの方法です。これは家庭での置き換えで、現地の標準ではありません。
ラードか油か。 ラードを使うとこくのある風味になります。植物油でも作れ、ラードを使わずに軽い味わいに仕上がります。
このレシピには乳製品(2種類のチーズ)が含まれます。トルティーヤ、チーズなど市販の材料は、アレルゲン表示や共用設備の表示を確認してください。
苦い、割れる、重い|よくある失敗の直し方
| 症状 | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| ソースが苦い | コマルで唐辛子を焦がした | 短く焼き、黒くなる前に返す。焦げた唐辛子の苦みはブレンダーにかけたあとでは取りにくいので、焼く工程が要になる |
| ソースが濃すぎてまとわない | ブレンダーに入れた水分が少ない | 水を少しずつ足して、もう一度回す |
| 巻くときにトルティーヤが割れる | 揚げすぎた、または詰める前に冷めた | 短く揚げてしなやかさを残し、ソースを温かく保ち、ソースに通したらすぐ詰める |
| 油がひどくはねる | ソースに浸してから揚げた | 先に揚げ、あとでソースに通す |
| 皿が油っぽい | フライパンの油を持ち込みすぎた | ソースに入れる前に、トルティーヤの余分な油を切る |
| じゃがいもの中が硬い | 火の通りが足りない | 切って中心がやわらかいのを確かめるまで続ける |
アレンジ
- チーズの詰め物(レシピ集どおり)。 この記事のように、パネラとアサデロにすりおろした玉ねぎを合わせます。
- ほぐした鶏肉を詰める。 メリー・マルティネスのレシピのように、赤いエンチラーダに鶏肉や豚肉のほぐし身を詰める家庭もあります。よくある家庭の形で、ここで紹介するサルティヨのレシピではありません。
- ラードの代わりに植物油。 全工程でそのまま使えます。味わいは軽くなります。
- ほかの地域の形。 折りたたむ型、巻かない型、サルティヨの唐辛子を練り込む生地の型は、それぞれ別の料理です。比較のために上で触れただけです。
乾燥唐辛子を使う料理をほかにも作りたいなら、別の使い方をするポソレ・ロホ(pozole rojo)もあります。コーントルティーヤを軸にした料理なら、タコスも並べて比べてみてください。
よくある質問
アンチョ、パシージャ、グアヒージョはどう違いますか?
このレシピでは、アンチョ(またはコロラド)が色とドライフルーツのような香りを、パシージャが深みを担います。グアヒージョはサルティヨのレシピには入っていませんが、ほかの家庭の赤いエンチラーダにはアンチョと合わせて登場します。
乾燥唐辛子の代わりにチリパウダーを使えますか?
同じようには使えません。粉末にするとソースの香り、色、口当たりが変わります。焼いてやわらかく戻した乾燥唐辛子が、このソースの持ち味です。
コーントルティーヤが破れてしまうのはなぜですか?
たいていは、揚げすぎてパリッとしたか、詰める前に冷めたことが原因です。短く揚げ、ソースを温かく保ち、ソースに通したらすぐ巻いてください。
肉なしで作れますか?
作れます。サルティヨのレシピは、チーズと玉ねぎだけを詰めます。
緑のエンチラーダとはどう違いますか?
緑のエンチラーダはトマティーヤのソースが土台です。これは乾燥したアンチョとパシージャから赤い色と風味が生まれ、チーズを詰めて、じゃがいもを添えます。
オーブンで焼きますか?
焼きません。レシピ集に焼く工程はなく、揚げ、ソースに通し、詰めて巻いたら、すぐに食卓に出します。皿は盛りつけまで置いておくだけの場所です。
作り置きできますか?
レシピ集は組み立てたらすぐ食べる形で、この記事では保存や温め直しの方法は案内しません。ソース、詰め物、付け合わせを先に用意しておくと、巻く作業が手早く進みます。

















