白いごはんの横に、ちょこんと置かれた小皿。揚げたなすに酢とマスタードの香りがまとわりつき、玉ねぎの縁が透き通っています。スリランカのライス&カレーや祝いの食卓では、豆カレーや鶏カレーの隣にこんな副菜が添えられます。ワンバトゥ・モージュは、甘酸っぱい揚げなすを和えた一皿です。煮汁をたっぷり含んだなすカレーとは違い、たれは薄くまとう程度で、揚げた香ばしさと酸味が前に出ます。
日本のなすで、そのまま作れます。まず棒状に切って揚げ、油をしっかり切ってから、酢・砂糖・マスタードのたれで和えます。揚げてから和えるのがこの料理の順番です。作業は45分、味をなじませる時間が30分で、合わせて75分。四人で分ける副菜として、家庭向けにまとめた目安です。
なすの小皿が、祝いの食卓を引き締める
呼び名はいくつかあります。Wambatu Moju、Batu Moju、Brinjal Moju、Eggplant Mojuはどれも、このなすの副菜を指して使われています。Wambatu Mojuはシンハラ語の料理名をローマ字で書いたもので、日本語ではなすのモージュと言えば伝わります。
食卓でのふるまいは、主役というより名脇役です。白米や黄色い米料理に添え、豆カレーや鶏カレーと同じ食卓に並べる。現地のレシピにもそうした献立例があります。ひと口ふくむと、なすのやわらかさのあとに玉ねぎの歯触りが来て、酢の酸味、砂糖の甘さ、唐辛子の辛さが順に重なります。山盛りで食べる主菜ではありません。米やほかのおかずに少しずつ添える盛り付けが、この味に合っています。
現地の料理家は、これを祝いの献立の副菜として紹介しています。ただ、特定の祭日や結婚式に欠かせない料理だと言い切れる材料はありません。祝いの皿でありながら、家庭のおかずでもある。そんな距離感の料理です。このレシピの段取りの面白さは、揚げる作業と和える作業を分けて用意できるところにあります。もちろん、これは常温で長持ちするという意味ではありません。食卓に出すときは、小皿で添える副菜として扱ってください。
英語ではpickleやrelishとして紹介されることがあり、酢味の副菜として食べる料理です。ただし今回の家庭向けの配合は、酸度や保存性を確かめた瓶詰めではありません。常温保存できる漬物と同じものとは考えないでください。
同じモージュでも、家庭ごとに姿が変わる
現地の料理家のレシピには、二つの姿があります。ひとつは棒状のなすを揚げ、マスタード酢で和える版。もうひとつは、約2mmの半月切りにして揚げる、乾いた仕上がりの版です。切り方で変わる食感は大きく、今回はなすのやわらかい中身を残したいので棒状の配合にしています。薄切り版に同じ揚げ時間をあてはめることはしません。
配合の違いは、ほかにもあります。薄切りの乾いた版には、ケチャップ、モルディブフィッシュ、カレーリーフを使うものがあり、今回の材料には加えていません。マスタード、酢、揚げた野菜を使う家庭レシピでも、赤玉ねぎやピーマン類、香辛料が違う配合が見つかります。北部や南部のすべての家庭が同じ配合だ、といった地域差までは確かめられていません。ここは地域の決まりではなく、家庭ごとの配合、あるいは移住先で材料が変わった結果として受け取るのが自然です。
海を渡った食文化としての話も、ひとつ紹介します。Diaspora Co.は、農園Eko Land Estateの家庭レシピを掲載し、モージュを16世紀のポルトガル植民地期に結びつけて紹介しています。これは同社が紹介する由来説です。同じページのレシピは、Sumithra AttanayakeのレシピをAsha Loupyが調整したもので、古くから伝わる唯一の原配合というわけではありません。
日本の台所でそろえる材料と香り
なすは、へたを除いた可食部で500gを量ります。日本のなすで作れます。紫色のなすで十分に作れ、品種を気にするより、棒の太さをそろえる作業に気を配るほうが仕上がりに響きます。赤玉ねぎは200gです。小玉ねぎやシャロットがあれば同じ重量で置き換えられ、日本の白玉ねぎでも作れますが、色と歯触りは変わります。
マスタードは、マスタードシード小さじ1と1/2をすり鉢で粉状にして使います。種を粉状にするのがポイントで、軽く砕いただけだと粒の食感が残ってしまいます。粉からしに替えるなら、初回は小さじ1/2から。辛さの性格が変わる、家庭向けの代替です。粒マスタードは酢や塩などで味がついているため、同じ量で置き換えないでください。
小さじ1と1/2という量なら、手持ちのすり鉢で挽く方法で足ります。新しい器具を買う必要はありません。今後もホールスパイスを挽く機会が多いなら、スパイスミルという選択肢はあります。購入前に、少量を挽けるか、取扱説明書の最低投入量と対象食材を確かめてください。すべての機種が少量のマスタードに向くとは限りません。
粒マスタードしかないときは、本体に入れる前に、たれの別皿で小さじ1を混ぜて試します。酢は30ml、塩は本体用の半量から始め、味をみながら足してください。基本配合とまったく同じ仕上がりになるとは言えません。基本はマスタードシードから作る版です。
酢は穀物酢か米酢を45ml、砂糖は18gが基本の家庭向け配合です。味付きのすし酢は塩と糖がすでに入っているので、同じ量で置き換えないでください。青唐辛子は20gを使います。辛さを抑えたいときは、ししとう20gに替え、唐辛子粉を小さじ1/4から小さじ1/8に減らします。それでも甘酸っぱさは残ります。ターメリックは小さじ1/2。通販で探すなら、一般名のマスタードシード、ターメリックで検索すれば見つかります。
途中で見つける、味の決め手
甘さ、酸味、油っぽさを整える
たれだけを味見したときと、野菜に絡んだときとでは、味の強さが違います。白米と一緒に、少量ずつ足すつもりで調整してください。
| 気になる状態 | 戻し方の目安 | 避けたいこと |
|---|---|---|
| 酸味が強い | 砂糖を小さじ1/2ずつ、別皿の少量のたれに溶かして戻す | 大量の砂糖を一度に足す |
| 甘すぎる | 酢を小さじ1ずつ加え、米と一緒に味をみる | 酢を注いで汁だくにする |
| 油っぽい | 和える前なら網で油を切り直す。和えた後は表面の余分な油を清潔なスプーンですくう | 水で洗う、強く絞る |
| なすが崩れた | さらに混ぜず、小皿へ移す。次回は棒の厚さと混ぜ方を見直す | 加熱し直して形を戻そうとする |
| 焦げが苦い | 黒く焦げた部分を除く。次の回は温度と時間を下げる | 砂糖や酢で焦げ味を隠す |
辛さが気になるなら、仕込みの段階で青唐辛子をししとうにし、粉を半量にするほうが扱いやすいです。辛さは仕込みで調整します。出来上がりが辛すぎたときは、唐辛子の小片を除き、米と少量ずつ食べてください。砂糖を増やしても、唐辛子の辛み成分が取り除かれるわけではありません。
途中で、なすが油を吸いすぎたように感じたら、次の回に大量のなすを入れず、温度計で170〜180°Cへ戻してから揚げます。揚がったなすは一段で油切りします。すでに揚げたなすを何度も油へ戻す方法はすすめません。外側だけが焦げる前に切り上げましょう。
ごはんとカレーを並べる食卓

モージュは皿全体へ混ぜ込まず、米の横に少しずつ盛ります。酸味や辛さを、ひと口ごとに調整できるからです。現地のレシピには、鶏カレーや豆カレーと合わせる献立例があります。日本の家庭なら、ごはんにカレーとモージュを加えた2〜3皿の食卓から始めると、無理がありません。
ポルロティと合わせる食べ方も、現地の家庭レシピにあります。料理名と食べ合わせ以上の決まりを、ここで作るつもりはありません。ココナッツ入りのパンに酸味のある副菜を添えるという組み合わせは、家庭向けの献立提案として、パンにも添えるのがおすすめです。
- 鶏カレーの主菜を添えるならククルマス・カレーの作り方。
- ココナッツ入りの平焼きパンを用意するならポルロティの作り方。
保存とよくある質問
酢が入っていても、この家庭調整版は常温保存できません。酢入りでも冷蔵が基本です。清潔な浅い容器に移し、4°C以下で速やかに冷やします。室温に置く合計時間は2時間以内、32°Cを超える暑さでは1時間以内という、一般的な食品安全の指針を守ってください。食べる分だけ、清潔なスプーンで取り分けます。家庭向けの保守的な提案として、翌日までに食べ切ることをおすすめしますが、これは検証済みの保存期限ではありません。
瓶に詰めても、常温で保存できる配合ではありません。室温で時間を超えて置いたものは、冷蔵し直しても救えません。マスタードにアレルギーのある方には使わないでください。今回の基本版は魚を加えませんが、モルディブフィッシュを加える別配合は魚を含みます。
前日に作れますか?
前日に作るなら、揚げて和えたら速やかに冷蔵し、翌日に食べ切ります。家庭向けの目安です。食卓に出す分だけ取り分けてください。温かさを戻したくても、容器ごと何時間も室温に出しておくのは避けます。翌日に味がなじむことと、安全であることは別の話です。
揚げずに作れますか?
エアフライヤーを使う別のレシピはありますが、今回の揚げ時間や油量はそのまま使えません。フライパンで焼く方法に替えると、油の量、焼きむら、なすの水分が変わります。今回の工程は、少量ずつ油で揚げる作り方に限っています。
マスタードシードがありません
材料選びの節に書いたとおり、粉からし小さじ1/2、または粒マスタード小さじ1を、少量で試作してみてください。基本版と同じ香りや食感にはなりません。調味済みの粒マスタードなら、塩と酢を減らして試します。
冷凍できますか?
冷凍後の食感と保存期間は、今回は確かめていません。少量を作って冷蔵し、翌日までに食べ切る方法をすすめます。冷凍すれば、常温で置きすぎた料理が安全になる、ということもありません。
栄養成分の数字はどのような目安ですか?
1人分で約167kcal、たんぱく質1.9g、脂質12.7g、炭水化物15.0gという数字は、なす500g、玉ねぎ200g、砂糖18gを主材料とし、食べる料理に残る油を全量で50gと仮定した簡易概算です。文部科学省の生なす、生玉ねぎ、上白糖、調合油の成分値によっています。少量の香辛料、香味野菜、酢は計算に含めておらず、ごはんやカレーも入っていません。吸油量は測っていないため、吸油量で変わる概算として見てください。料理全体の実測栄養値や、決まったカロリーとは扱えません。










