熱々の小さな米粒のごはん。そこに、レモングラスと魚醤の香りをまとい、縁にキャラメル色の焼き目がついた豚肉がのります。脇には細切りの大根とにんじんの漬物、ひんやりしたきゅうり、ごはんの上でつやつやと光るねぎ油。別の小鉢には、注ぐばかりの甘い魚醤だれ。これがベトナム南部、ホーチミン市(サイゴン)と強く結びついたコムタムの一皿です。割れた米粒そのものが料理の中心にあります。
名前にも手がかりがあります。Cơm は炊いたごはん、tấm は精米のときに割れてしまった米粒のこと。長粒の米をそのまま炊いたごはんとは違い、短く砕けた粒は、炊き上がりも、たれの含み方も変わってきます。
コムタム:割れ米が主役のサイゴンの一皿
この皿で守りたいのは、短い粒をつぶさずほぐしたごはんと、甘い下味を焦がさず中まで火を通した豚肉です。たれは別の器に入れて出し、かける量は食べる人が決めます。
このレシピは、割れ米、レモングラスと魚醤の焼き豚、ねぎ油、甘酢っぱいたれ、簡単な漬物を軸に、卵と豚ひき肉の蒸し餅 chả trứng も加えて、店で出てくるような一皿に近づけた家庭向けの組み立てです。分量は公開されているレシピをもとに家庭の台所向けにまとめた提案で、これが唯一の伝統的な配合というわけではありません。店の盛り合わせに近い皿まで作れるように、蒸し餅の工程も入れてあります。
割れ米から、ホーチミン市の定番へ
ベトナム政府観光局の案内では、コムタムはホーチミン市の朝食の定番として紹介され、いまは一日を通して食べられています。tấm の米は、売り物にならない割れ米を農家が取っておいて食べていたものだと説明されており、豚肉、目玉焼き、ねぎ、パパイヤの甘酢漬け、甘い魚醤だれを合わせた皿が例に挙がっています。売り物にならなかった米が出発点というわけです。
VnExpress International は、コムタムをサイゴンの料理として紹介し、所得の低い人たちの食事と結びつけながら、現在はさまざまな形があることも伝えています。二つの資料を並べて読むと、精米の副産物だった割れ米が、都市の朝ごはんの文化に根づいていった料理だとわかります。ただし、いつ生まれたか、誰が考え出したかは、どちらにも書かれていません。この記事でも年代や考案者は特定しません。
変わってきたのは、皿に何をのせるかです。ごはんの脇に並ぶ具は店や地域、家庭で違います。次の節で、その主な組み合わせを見ていきます。
sườn・bì・chả、店ごとに変わる盛り合わせ
店の皿には、ごはんに添えて三つの定番がのることがあります。ほかに目玉焼き、ソーセージ、漬物なども、場所によって加わります。
| 名前 | どんなもの | このレシピでは |
|---|---|---|
| sườn(スオン) | 焼き豚。下味をつけたポークチョップが多い | 作る:レモングラスと魚醤の豚肉 |
| bì(ビー) | 細切りの豚皮と豚肉を、thính gạo(炒り米の粉)で和えたもの | 基本のレシピには入れない。アレンジの項を参照 |
| chả trứng(チャーチュン) | 豚ひき肉と卵の蒸し餅。春雨やきくらげを入れることが多い | 作る:上に卵黄の層をのせて蒸す |
| 添え物 | 漬物、きゅうり、ねぎ油、甘い魚醤だれ | 作る:大根とにんじんの簡単漬物、きゅうり、ねぎ油、nước chấm |
観光局の案内には、薄切り肉、ソーセージ、煮卵をのせるロンスエン(Long Xuyên)風の皿も出てきます。ただし、この説明は主にこの一つの案内によるものなので、地域によって皿が変わる例の一つとして受け止めてください。決まった定義ではありません。
bì は買い物にも下ごしらえにも手間がかかるため、基本のレシピでは省きました。ごはん、焼き豚、蒸し餅、漬物、ねぎ油、たれがそろえば、食事として十分に成り立ちます。
この料理に使える食材・調味料
道具
- 炊飯器、または蓋つきの鍋(ごはん用)
- 目の細かいざるとボウル(米をとぐ用)
- グリルパン、または魚焼きグリルやオーブンのグリルなど上から焼く器具
- 清潔な中心温度計
- 蓋つきの蒸し器と、蒸し餅用の浅い耐熱皿
- トングと、生の豚肉用・焼いた豚肉用の別々の皿
- ねぎ油用の小さな耐熱ボウルと、油を温める小鍋
米、魚醤、レモングラスの選び方
この料理の個性を決めるのは、何より割れ米です。ベトナム食材店や東南アジア食材店で、gạo tấm や「ブロークンライス」の名前を探してください。
| 食材 | 選ぶときの目安 | 見つからないとき |
|---|---|---|
| 割れ米(gạo tấm) | 短く不揃いに割れた粒 | ジャスミン米や日本のうるち米でもおいしく炊けますが、粒の長さ、ほぐれ方、たれの含み方が違います。割れ米そのものではありません |
| 魚醤(nước mắm) | 銘柄で塩気がかなり違う | 水・砂糖・柑橘で、少しずつ味を調整する。分量を一度に大きく変えない |
| レモングラス | 生の茎の白い部分を使う | 生が手に入らなければ冷凍も助けになる。しょうがやレモンの皮は別の香りになり、完全な代わりにはならない |
| しょうゆ | 参考にしたレシピが下味に使っていたもの | 現地のどの型にも入るわけではない。ここでは色とコクを足す役割 |
| きくらげ・春雨 | 乾燥品をアジア食材店などで | 省くと蒸し餅の食感が変わる |
割れ米の短い粒は、米袋の表示どおりに炊くのが前提です。魚醤の塩気は銘柄しだいなので、たれは味を見ながら整えます。
失敗したときの直し方
| 困りごと | 考えられる原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| ごはんが団子状、またはべちゃつく | 洗うときにこすりすぎた。水加減や浸水が製品に合っていない | やさしく洗い、炊飯器か米袋の水加減・浸水の指示に従う。ほぐすときは押さず、持ち上げる |
| 豚肉の表面が焦げる | 下味の砂糖とはちみつが焦げやすい | 余分な下味をぬぐい、火を弱め、こまめに返す |
| 豚肉が硬くパサつく | 厚みが不ぞろい。焼きすぎ | 厚みをそろえてたたく。温度計で安全な加熱を確認し、勘で長く焼かない |
| たれが塩辛い | 魚醤の銘柄で塩気が違う | 水、砂糖、ライムを少しずつ足す |
| chả trứng が水っぽい、崩れる | 戻した春雨ときくらげの水切り不足。熱いうちに切った | しっかり水気を切り、少し冷ましてから切る |
| chả trứng の中心がゆるい | 皿が思ったより深い | 蓋をして蒸し続け、中心が固まり、清潔な温度計でひき肉の中心が75℃で1分以上になってから、卵黄の層をのせる |
chả trứng の蒸し時間には幅があります。卵黄を塗る前に約30分蒸す方法もあれば、20〜25分蒸してから卵黄の層に8〜10分かける方法もあります。どちらの数字よりも、皿の深さのほうが大きく影響します。
アレンジ
- 骨付き豚ロースで店の見た目に近づける。 骨付きのロースを使うと、サイゴンの皿に近い姿になります。厚みに合わせて焼き時間を調整し、中心を確かめてください。
- 豚肉の代わりに鶏もも肉で作る。 別のレシピとして扱い、豚肉の時間を流用せず、中心まで火を通します。
- bì を加える。 細切りの豚皮と豚肉を thính gạo(炒り米の粉)で和えると、乾いた歯ざわりが加わります。手に入る加工品を確認し、衛生に気をつけて扱ってください。市販の豚皮スナックは同じものではありません。
- chả trứng を省いた簡単な皿にする。 割れ米、焼き豚、目玉焼き、漬物で、手早い皿になります。蒸し餅を添えた完全版よりは軽い構成です。
- ロンスエン風の盛り合わせを試す。 観光局の案内にある、薄切り肉、ソーセージ、煮卵の組み合わせです。これは主にその一つの資料に基づく例です。
保存、再加熱、アレルギー
先に作っておく場合は、具を別々にして早く冷まし、冷蔵庫に入れます。食べる分だけ取り出して、しっかり再加熱してください。炊いたごはんを常温に置いたままにしないでください。具体的な保存期間は、ここでは示しません。
この料理には、魚(魚醤)、卵、豚肉が使われ、しょうゆには通常、小麦と大豆が含まれます。含まれるアレルゲンは使う製品によって変わるので、表示を確認してください。
よくある質問
割れ米が見つからないときは?
ジャスミン米や日本のうるち米でも作れます。ただし、粒が長かったり粘りがあったりして、ほぐれ方もたれの含み方も違います。おいしい皿にはなりますが、料理名の由来になっている割れ米の食感とは別物です。
炭火なしで作れますか?
作れます。グリルパンや、魚焼きグリルなど上から焼く器具で焼けます。甘い下味は煙が出やすく焦げやすいので、余分な下味をぬぐい、火は強くしすぎないでください。
bì と chả は必ず必要ですか?
いいえ。sườn、bì、chả がそろうのは店の盛り合わせの一例で、店、地域、家庭で組み合わせは変わります。家庭では、ごはん、焼き豚、漬物、ねぎ油、たれだけでも食事になります。chả trứng や bì は加えるものです。
ブンティットヌンとの違いは?
どちらも焼き豚を使いますが、ブンティットヌンは米粉の麺(ブン)に具とたれを合わせる料理です。コムタムは割れ米を中心に皿に盛り、甘い魚醤だれをかけて食べます。ブンティットヌンと並べて作ると違いがよくわかります。北部の焼き豚つけ麺ブンチャーも、別の料理として比べてみてください。
















