夏の家庭の台所。縦に切ったなすが、油の中でじゅうっと音を立てて色づいていきます。その横では、すり鉢でくるみがごりごりと潰され、にんにくと酢が加わって、たれの香りが立ってきます。焼き上がったなすは皿に並べて、触れる温度になるまでしばらく待ちます。ジョージアで夏の前菜として親しまれている、なすのくるみ巻きの仕込みです。
バドリジャニ・ニグヴジト(ბადრიჯანი ნიგვზით)は、焼き揚げたなすで香辛料入りのくるみだれを包む、冷たい前菜です。焼きたての熱いなすとは違い、なすは中まで柔らかく、たれは水のように流れずなすにとどまる厚さに仕上げます。にんにくと酢を含んだくるみのコクに、ざくろの粒を添えることもできます。この記事のレシピは4人分の家庭向けに調整した配合で、加熱は約25分、塩もみと冷蔵1時間を含めて全体で約2時間15分です。日本の短いなすなら、無理に何重にも巻かず二つ折りにできます。冷やしてから食卓へ出す前菜なので、食べる時間より前に仕込んでおけるのも助かる点です。
なすのくるみ巻きが並ぶ、ジョージアの食卓
ジョージアでは、このなす料理を食事の複数の皿の一つとして供する例があります。夏の前菜として紹介される家庭料理でもあります。パンやほかの野菜料理と一緒に、小皿がいくつも並ぶ卓を思い浮かべてみてください。食卓の一皿として、冷たいなすがそこにあります。口に運ぶと、柔らかいなすの奥から、細かく潰したくるみ、にんにく、酢の香りが順に広がります。
この料理には、肉も魚も卵も乳も使いません。なす、くるみ、植物油の組み合わせだからです。IOCCのジョージアチームが紹介する斎食のレシピでも、夏の前菜をサラダやじゃがいもと合わせる食事へと広げています。ただしこれは特定の宗教実践の一例です。日常の冷前菜として食べる場面と、宗教的な食事の場面は、分けて考えてください。
地域によっても表情は違います。西部のイメレティ地方の季節の配合例では、生のコリアンダーの香りを大事にします。くるみだれに玉ねぎや青唐辛子を使う例もあります。香辛料をたくさん混ぜることだけが現地らしさではなく、生の香草を生かす配合もあれば、乾燥スパイスを使う配合もあります。もちろん、地域だけで各家庭の味が決まるわけではありません。日本の台所では、パクチーとして売られる葉と、種を挽いたコリアンダーパウダーを別々に用意します。葉と種を使い分けるのが、この料理の香りの土台になります。
くるみだれを塗ったなすは、二つ折りにする形もあれば、くるくると巻く形もあります。晩秋の小さななすを丸ごと焼き揚げる例も紹介されています。きれいな渦巻きにならなくても、料理としては立派に成り立ちます。短い日本のなすなら、二つ折りが取り組みやすい形です。
この料理ではなすがくるみだれを包みますが、刻んだ野菜とくるみを合わせる冷前菜にも、同じ食卓で出会えます。気になる方はほうれん草のプハリをのぞいてみてください。野菜でたれを包むこの料理に対して、プハリは野菜とくるみを混ぜてまとめる一皿です。作り方や分量は別物として考えてください。
日本の台所でそろえる、なすと二つの香辛料
なすは、へたを除いた可食部で500gを基本にします。長さに余裕のある長なすは巻きやすく、普通のなすでも、縦方向に約5mmの縦切りにできるものなら使えます。個数は大きさで変わるので、数ではなく重さで量ってください。丸くて大きななすは幅広の板状になりますから、焼いたあとに幅を分けるか、二つ折りにするとよいでしょう。厚すぎると柔らかくなるまで時間がかかり、薄すぎると穴があいたり破れたりします。約5mmは、包めるしなやかさを残すための目安です。
くるみは、無塩で味付けなしのいりくるみを150g用意します。たれ用に細かくすり潰すので、粒でも割れたものでも、形の整ったものを選ぶ必要はありません。塩付きや砂糖付きの菓子用ナッツは、この材料表の塩と酢の配合にそのまま置き換えないでください。焙煎の程度でも香りは変わりますが、さらに強く煎って焦がすことはしません。
香辛料の青フェヌグリークは、現地で「外国の香辛料」という意味のウトスホ・スネリ(უცხო სუნელი)と呼ばれ、種とさやを挽いたものです。料理資料には、青フェヌグリークを使う例と、普通のフェヌグリークを組み合わせて代用する例があり、香りまで同じとは言えません。この記事の基本配合は、普通のフェヌグリークパウダー小さじ1/4です。青フェヌグリークの粉を用意した場合は、普通の粉を入れず、小さじ1に替えてください。通販では、粉末か種か、青フェヌグリークか普通のフェヌグリークかを原材料名で確かめます。種類と粉末表示を確認したうえで選びましょう。ホールの香辛料はそのまま入れず、すり鉢やスパイスミルで細かく挽きます。基本配合どおり粉末を買うなら、スパイスミルは要りません。
コリアンダーパウダーとフェヌグリークは、スパイス売場や、香辛料を扱う通販で一般名を検索すると見つかります。コリアンダーは種を挽いた粉を選んでください。生のパクチーの葉だけでは、粉の役割を同じ分量で置き換えられません。青フェヌグリークが探しにくいときは、普通の粉を少量使う家庭向けの配合で進めます。探しにくい材料をすべて買い足す必要はありません。
ところで、現地のくるみ料理には、乾燥して挽いた食用マリーゴールドの花弁を加える例があります。この材料表では使わず、くるみ、にんにく、二つの香辛料、酢で作ります。
途中で見つける、味の決め手
たれがゆるい、なすが硬いときの直し方
巻く前なら、たれの濃さもなすの加熱も調整しやすい段階です。たれを塗る前に、なすが曲がるかどうかと、スプーンの山が残るかどうかを、包む前に別々に確かめると原因が混ざりません。なすの中心が白く硬いときは、くるみだれを塗る前に、中火より弱めの火で片面1〜2分ずつ追加します。中心が柔らかくなるまで、様子を見てください。
| 困った状態 | 起きやすい理由 | その場で戻す方法 |
|---|---|---|
| たれが流れてなすから落ちる | 水をまとめて足した、くるみが粗い | まず5分置いて確認。なお流れるなら、追加の無塩くるみを10gずつ細かくすり潰して混ぜる。追加分は材料表の外 |
| たれがぼそぼそで塗れない | 水分不足、くるみの粒が大きい | さらにすり潰してから、水を5mlずつ追加。基本配合の追加水は15mlまで |
| なすが油っぽい | 焼く途中で油を多く足した | 新しいキッチンペーパーで表面の油を軽く押さえる。たれを酢で薄めて隠そうとしない |
| 巻くと裂ける | 薄すぎる、たれの入れ過ぎ | 穴のない一枚で二つ折りにする。裂けたものは皿でたれを重ねて供し、巻き直して潰さない |
| にんにくが強い | 生にんにくの量や個体差 | 次回は6gから3gに減らす。冷やせば必ず辛さが消えるとは断定しない |
たれが硬いときに足すのは、酢ではなく水です。5mlずつ加えます。酸味と粘度を別に調整して、一緒に増減しないようにしてください。米酢は白ワインビネガーと香りが違いますが、基本量の20mlで使える家庭向けの代案です。塩は、焼いたなすとたれを合わせて味見してから調整します。
二つ折り、香草多め、焼きなすに広げる
二つ折りも巻く形も、どちらも現地の資料にあります。短いなすには二つ折り、長い板状のなすには巻く形が向いています。形を変えても、なすとくるみという組み合わせは変わりません。
| 作りたい一皿 | 4人分での変更案 | 変わる点 |
|---|---|---|
| 短いなすの二つ折り | 材料はそのまま。たれは半面へ塗って折る | 巻き終わりを作らず、厚みを抑えやすい |
| 香草を増やす | たれのパクチーを10gから20gへ | 葉の香りが増す家庭向け提案 |
| ミントを添える | たれのパクチー10gに刻んだミント3gを加える | 香草を使う別配合を参考にした提案。基本配合とは香りが変わる |
| レモンの酸味に替える | 白ワインビネガー20mlをレモン汁20mlへ | 柑橘の香りへ変わる。水は45mlから粘度を確認 |
| パセリで作る | たれのパクチー10gをパセリ10gへ、飾りもパセリ3g | パクチーの香りを避けたい人向け。現地と同じ香りにはならない |
なすを丸ごとオーブンで柔らかく焼き、皮を外して水分を切り、潰してからくるみだれと混ぜる形も紹介されています。巻く工程を省くので、盛り付けも食感も変わります。和える形は食感が変わる別の一皿です。基本の縦切りを焼き揚げる手順を、そのままオーブンの同じ時間に移さないでください。丸ごとの大きさと加熱方法が違うため、上の表の5案とは別の調理形として考えます。現地の配合例にある玉ねぎや青唐辛子は、地域差の話にとどめます。検証していない別レシピの分量を、完成したレシピとして足すことはしません。
冷たい前菜から、夕食の一皿へ

なすのくるみ巻きを冷前菜として出し、温かい料理やパンを添える家庭向けの食卓案です。冷前菜と温かい一皿を並べると、食事に温度の起伏が生まれます。くるみだれには油脂があり、なすも植物油で焼くので、野菜だけの軽い料理と決めつけないでください。酸味のある小皿や主食と、分けながら食べるのがおすすめです。
温かい豆の一皿を合わせるなら、赤豆の煮込みロビオが編集部のおすすめです。定番の唯一の組み合わせや、宗教上の正式な献立というわけではありません。盛り付けでは、ざくろを全体に混ぜず、少量だけ散らします。粒の赤と香草の緑で、たれを包んだなすが見える盛り付けにしてみてください。
よくある質問
前日に作って冷蔵できますか?
中まで加熱したなすを浅く広げて冷まし、組み立てたら清潔な蓋付き容器に入れて、0〜5℃の冷蔵庫へ入れます。加熱後から2時間以内に冷蔵してください。加熱後2時間以内に冷蔵するのが約束事です。冷蔵後は48時間以内を目安に食べ、食卓には食べる分だけを出します。酢が入っているからといって、常温で保存できるわけではありません。全体の2時間15分には冷蔵60分が含まれています。常温に2時間15分置くという意味ではありません。
冷凍しても巻いた形を保てますか?
冷凍すると、解凍時になすの水分や形が変わりやすくなります。元と同じ食感は保証できないので、まずは冷蔵で食べ切れる量を作ることをおすすめします。冷凍する場合は、加熱後に小分けして冷まし、早めに密閉して冷凍します。解凍は冷蔵庫で行い、完全に解凍したら24時間以内に食べてください。この料理に固有の冷凍保存の日数は確認できていないので、設定していません。冷蔵の48時間を、冷凍の日数に当てはめないでください。
フェヌグリークがなくても作れますか?
なすとくるみだれの形は作れますが、香辛料の香りは基本配合とは変わります。コリアンダーを倍量にして同じ香りにしようとする方法は、おすすめしません。買い物のしやすさでは、まず普通のフェヌグリークパウダー小さじ1/4を使う配合が取り組みやすいでしょう。青フェヌグリークを使うなら小さじ1にして、二重に入れないでください。種のまま混ぜると、粉末と同じたれにはなりません。ホールしかないときは、細かく挽いてから使います。
くるみを別のナッツに替えられますか?
味のアレンジとして別のナッツを試すことと、くるみアレルギーの人への安全な代用は、まったく別の話です。このレシピではくるみを使います。くるみを食べられない人には、別のナッツやごまなら安全と推測せず、本人に確認して別の料理を選んでください。表示や器具、飾りの食材まで確かめます。くるみだれを取り除いただけで、同じなすを供することもしないでください。
この料理はくるみを使います。くるみアレルギーのある人には供しないでください。家庭での加熱でアレルギーの問題は解消しません。ほかのナッツやごまに置き換えれば安全とは言えません。食べられる材料を本人に確かめ、必要なら別の料理を用意します。アレルゲンを扱ったすり鉢、すりこぎ、作業台を共用するときは、痕跡が残らないよう洗浄してください。製品の原材料表示と注意表示も確認します。
取り分けは清潔な器具で行い、食べ残した取り皿のものを保存容器へ戻さないでください。常温でゆっくり味をなじませる保存方法にはしません。食べる分だけ取り出すようにして、冷蔵の温度と時間の条件を守ります。植物性の料理や酢入りの料理でも、冷蔵が要らないとは言えません。
栄養の目安
栄養値は、文部科学省の食品成分値をもとに、なす可食部500g、いりくるみ150g、植物油60gの3材料だけを合算した概算です。全量で1691kcal、たんぱく質27.4g、脂質163.7g、炭水化物43.1g、食物繊維22.3gになります。1人分は全量の4分の1で、約423kcalです。基礎3材料の概算であり、にんにく、酢、香草、香辛料、ざくろは計算に含めていません。完成した料理を正確に測った値ではありません。
油は調合油の成分値を使い、60gをすべて食べると仮定した計算です。フライパンやペーパーに残る油があるので、実際の摂取量は変わります。代替の材料や追加のくるみを使う場合も、値は変わります。
4人分は、前菜として分ける量です。主食と主菜は別計算で、パンや主菜は栄養値に含まれていません。くるみと植物油の量が、脂質やエネルギーの見積もりを大きく左右します。低脂質や痩せる、健康効果といった効能には結びつけないでください。











