ルアンパバーンの市場から家族の台所へ運ばれた材料が、一つの食卓に並ぶ場面を思い浮かべてください。湯気を含んだバナナの葉、刻んだディルとレモングラス、魚の白い身、蒸したてのもち米。葉を開いた瞬間、青い草の匂いと柑橘のような香りがふわりと立ちのぼります。ここに出てくるのが、ラオスのモック・パー(Mok Pa、ໝົກປາ)です。魚を香草と一緒にバナナの葉で包んで蒸した料理で、ディルとレモングラスの香りを吸った身を、もち米で魚をすくうようにして食べます。
作り方の骨組みは、魚を香草、魚醤、唐辛子、塩、もち米の結着材と合わせ、バナナの葉で包んで蒸すことです。魚を煮るのではなく包んで蒸すので、魚の水分と香りは葉の中にとどまります。魚の種類、パデークを使うかどうか、卵やもち米粉をどう使うかは、家庭や地域で違います。日本で作るなら、白身魚と魚醤を基本にして、こぶみかんの葉、ガランガル、冷凍バナナ葉の探し方と代わりの材料も本文でお話しします。香草を主役にすることで、ラオスらしい草の香りが残ります。ただ、代替で香りが変わる部分もあるので、その違いも正直にお伝えします。仕上がりの目安は、葉の香りが魚に移り、中心まで火が通り、魚の水分が皿に流れ出しすぎていないことです。

葉を開くと、魚より先に香草が立ち上がる
バナナの葉は、ただの包み紙ではありません。Naga Foundationの記録によれば、mokは香草、唐辛子、塩、魚醤で水辺の食材に味をつけ、バナナの葉で包んで蒸す調理です。魚を切り身のままソースで煮込むのとは違い、魚は一口大にして香味と混ぜ、葉の中で蒸気に当てます。魚の身を一口大にそろえると、香草がまんべんなく絡み、火の入り方もそろいます。
蒸し上がった包みを開くと、包みを開く湯気と一緒に香りが重なって上がってきます。まず葉そのものの青い香り。続いて、ディルの草のような香りと、レモングラスの柑橘めいた香り。その奥に、魚醤の発酵した旨味が静かに座っています。葉が香りを抱えるので、蒸している間に香りが逃げず、魚の身へ移っていきます。
mokという言葉が指すのは魚の料理だけではありません。小魚、水生昆虫、オタマジャクシなど、水辺で手に入るさまざまな食材が、同じように葉に包まれて蒸されます。mokは一つの固定レシピではないのです。モック・パーはその中で魚を使った一例で、具材も配合も、地域や家族によって変わります。
この記事の日本向けの配合では、ディルを省きません。水辺の食材を葉で蒸すという骨格のうえで、ディルの草の香りをしっかり残す。これがラオス料理らしさを台所に持ち込むための、この記事なりの軸です。
Naga Foundationの記録では、mokは水生動物を香草、唐辛子、塩、魚醤で味付けして葉で蒸す調理として説明されています。魚以外の水生食材も例に挙がっているので、この記事のモック・パーは「魚の版」という位置づけです。旅先や本で別のモック料理に出会ったら、包む、蒸す、香草で味を作るという共通点を手がかりにしてみてください。

モックは、水辺の材料を葉に包んで受け継ぐ
モックを特定の観光地の名物と思い込むのは、少しもったいない話です。Doi Ka Noiの料理書には「Mok – Wrapped & Steamed」という章があり、魚を香草とバナナの葉で蒸すmok pa nahm kongが紹介されています。作者はクムアン県の自給的な農村コミュニティで祖母から料理を学び、家族や日々の暮らしとともにレシピを記録してきた人です。包んで蒸す章が一冊の柱になっているのは、この調理が祖母から受け継ぐ味として家族の台所に根づいているからでしょう。もちろん、これをモック・パー全体の起源やルアンパバーン発祥の証拠とするつもりはありません。家庭料理が受け継がれていく一つの姿として受け取ってください。
魚の選び方にも幅があります。ラオスの淡水魚、ナマズ、ティラピアが資料には登場しますが、日本の台所では骨の少ない白身魚を基本にできます。淡水魚から白身魚へ移しても、葉と香草で蒸すという核は変わりません。
味の土台になる発酵調味料にも違いがあります。パデークは魚を発酵させた調味料で、魚醤に置き換えているレシピもあります。ただ、香りと塩味は同じではなく、パデークと魚醤の距離は意外に開いています。
結着材はさらに分かれます。もち米を煎って粗く砕く方法、もち米粉を使う方法、卵でまとめる方法が、資料ごとに見られます。この記事の配合は、砕いたもち米と卵の両方を使います。砕いたもち米が魚から出る水分を抱え、卵が具をひとまとまりにしてくれるからです。もち米が水分を抱えるおかげで、包みを開いたとき、具が皿へ流れ出しにくくなります。

ルアンパバーンの食卓では、もち米が箸になる
ラオスの食卓では、温かいもち米を指先で小さく丸め、それで魚をすくうようにして食べます。もち米を指先で丸めるところから食事が始まり、匙も箸も要らないまま、魚も香草もひとまとめに口へ運べます。
ルアンパバーンのRosewood Luang Prabangのメニューには、この料理の提供例があります。地元農場の食材を使い、Ban Phonexay farmのメコン魚を主役にした、ティラピアのMOK PA。味つけにはレモングラス、ディル、にんにく、唐辛子が並び、辛いトマトディップが添えられています。Rosewoodはラオスの食事を家族で分ける食事と説明していて、家族で中央から分けるという食卓の距離感が、この皿の背景にあります。
もう一つ、ICIS/Discovaのルアンパバーン行程資料に、印象深い一例があります。ホスト家族とPhosy市場で材料を用意し、もち米やモック・パーなどを作って寺へ供え、その後の昼食で分け合うという流れです。市場で材料をそろえるところから、供えた後に分けるところまで、同じ葉と香草が儀礼の場と食卓をつないでいます。ただしこれは一つの旅行体験行程に記録された例で、ラオス全体やすべての家庭の習慣だと言うことはできません。家庭料理と儀礼を混同しないように、寺へ供える場面と、蒸し上がった魚を家族で食べる場面は、別々の暮らしの一コマとして思い描いてください。
なお、この記事で使った資料からは、モックの起源や、この調理法がどう伝わり広まったかまでは確かめられませんでした。地域差についても、ここで見ているのは北部のルアンパバーンの例が中心で、南部の家庭がどんな配合で作るのかは確認できていません。由来や地方ごとの違いを断定せず、資料に出てきた範囲の食卓として読んでください。
途中で見つける、味の決め手
蒸し上がりを見極め、食卓で変化をつける
葉を開いたときの不透明な身、立ちのぼるディルとレモングラスの香り、底に水が大量にたまっていないこと。これがそろえば完成です。食べ方は、もち米でひと口を作るところから。小さく丸めたもち米で魚をすくい、トマトディップで辛味を足すと、ラオスの提供例に近い食卓になります。熱いうちに食べる料理です。残ったら粗熱を取って2時間以内に冷蔵し、再加熱は中心まで熱くしてください。冷凍すると食感が落ちるので、短い期間にとどめます。

具が水っぽくなったとき
| 状態 | 主な原因 | 戻し方 |
|---|---|---|
| 包む前からボウルの底に液体がたまる | 魚の表面が濡れている、香味ペーストが滑らかすぎる、解凍葉の水分が残っている | 生の具ならペーパーで魚を拭き、もち米粉小さじ1を加えて冷蔵10分。蒸し上がった後は粉を足さず、トマトディップと水分を切ったもち米で食べる |
| 葉が閉じず汁が漏れる | 葉が硬い、1枚だけで包んだ、具が厚すぎる | まだ蒸す前なら葉を湯で柔らかくし、2枚を葉脈交差で重ねる。具を4等分より小さくし、閉じ目を上にする |
| 中心が半透明のまま | 包みが厚い、蒸気が弱い、30分だけで取り出した | 包みを閉じて蒸し器へ戻し、3〜5分ずつ追加。中心63°C、または不透明でほぐれるまで確認する |
| 魚が固く乾いた | 切り身が小さすぎる、蒸しすぎた、蓋の蒸気が弱い | 取り出した後の魚は戻せないため、次回は3cm角を守り、蒸し器を十分に沸かす。今回はもち米とディップを添えて水分を補う |
魚と香草の組み合わせを変えるとき
魚は、ティラピアやナマズなら淡水魚らしい方向に、たらやスズキなら日本で扱いやすい白身魚の方向になります。ガランガルを生姜に替えると、ガランガル特有の硬質な香りは弱まります。こぶみかんの葉をライムの皮で補うと、香りの層が変わります。どちらも、変わることを承知のうえで選んでください。
パデークは魚醤より発酵香が強い調味料です。魚醤だけで作る場合も、塩味を足しすぎないようにします。ココナッツミルクを加えるカンボジアの魚料理とは方向が違い、モック・パーはディルと魚醤、淡水魚の香りを前面に出す蒸し物です。隣国の料理と食べ比べたくなったら、カンボジアのアモックや、生のハーブと魚醤の香りを楽しむラオスのラープも並べてみてください。代替しても残すディル、パデークの発酵香、ココナッツを入れない蒸し魚。この三つが、モック・パーの輪郭になります。
よくある質問
バナナの葉がない場合はどうする?
オーブンシートかアルミホイルで包んで蒸すことはできます。ただし、バナナ葉の香りと見た目は失われます。シートは2枚重ねにして、閉じ目を上にし、蒸気を逃がさないようにしてください。アルミホイルを使うときは、酸味の強い添え物を直接包みに入れないでください。
魚は切り身のまま包んでもよい?
3cm角に切ると、香草が魚全体に当たり、包みの厚みもそろえやすくなります。切り身のままだと、中心の火通りが遅れやすくなります。骨付き魚を使う資料もありますが、日本の家庭版では骨の少ない切り身をおすすめします。食べる前に、骨が残っていないか確かめてください。
パデークは必ず必要?
パデークは魚を発酵させた調味料です。手に入るなら、大さじ1を魚醤の一部に使ってください。魚醤だけでも作れますが、パデーク特有の発酵香は再現されません。魚醤は銘柄によって塩分が変わるので、追加の塩は控えめにします。
作り置きできる?
蒸し上がったものを室温に長く置かず、粗熱が取れたら密閉して冷蔵し、翌日までを目安に中心まで再加熱します。冷凍もできますが、葉と魚の食感が落ちます。包む前の具を冷凍するより、蒸し上がりを短期間だけ冷凍するほうが扱いやすいというのが、編集部の提案です。異臭やぬめりがあるものは、加熱で戻そうとせず、廃棄してください。
魚醤とハーブの組み合わせを、火を通さない別の形で味わうなら、ラオスのラープへ。香草と発酵調味料が麺の汁になる姿は、ラオスのカオ・プーンで見比べられます。同じ魚の葉蒸しでも、ココナッツと卵が主役になる隣国の料理は、カンボジアのアモックです。












