聖週間のエクアドルの家庭では、台所のテーブルに豆の袋やボウルがずらりと並びます。祖母がファバビーンズの殻を割り、子どもが白いんげん豆の数をかぞえ、誰かがとうもろこしの粒を外していく。そのかたわらでは塩鱈が水に浸かり、かぼちゃがやわらかく煮えています。ファネスカ(fanesca、fanesca ecuatoriana とも書きます)は、復活祭を迎える聖週間に食べる濃いスープです。聖週間の大鍋には豆や若い穀類、かぼちゃ、牛乳が集まり、ひと匙ごとに違う食感が出てきます。作る側にとっては、家族で豆をむく時間そのものが料理の一部です。塩鱈と若い穀類という、海と畑の素材が同じ鍋で出会うところに、この一皿の面白さがあります。
具は家庭や地域によって変わり、8〜12種ほどの豆・穀類を使うレシピがあります。12という数は、材料や穀類が使徒を表すという宗教的な解釈と結びついて語られますが、12種類の穀類をそろえなければならない料理ではありません。ただ、これだけ多くの具を入れるのは、数を競うためではなく、祝祭の食卓に家族の手と食材を持ち寄るからです。この記事のレシピは、日本で分担しながら作りやすい8種で作る形に整えました。とうもろこし、グリーンピース、ファバビーンズ、白いんげん豆、ひよこ豆、レンズ豆、チョチョス、米です。12に縛らないかわりに、スープの濃度は牛乳とかぼちゃで決めることを軸にします。
スペイン語の綴りは fanesca、または fanesca ecuatoriana です。Quito Turismo は、12の材料が使徒を表すと言われていると紹介していますが、12種類の穀類に限定しているわけではありません。地域や家庭によって材料も添え物も魚の扱いも違うので、この料理には、ひとつに決まった固定のレシピがありません。
作り方

所要時間には、塩鱈の塩抜き24時間が含まれています。加熱する当日にかかるのは約70分です。豆や穀類は硬さがばらばらなので、同じ鍋で煮ずに、別々に火を入れるのがこの料理の前提になります。そのうえでスープの土台を作り、アナトーの炒め床、落花生と牛乳、塩鱈を順に仕上げ、最後に合わせる。味つけは塩鱈とチーズの塩気が入ってから見るので、塩は一番最後です。
1. 塩鱈の塩抜きと豆の下ゆでを前日に行う

いちばん時間のかかる塩抜きから始めます。塩鱈200gをたっぷりの水に入れて冷蔵庫に置き、6〜8時間ごとに水替えをして24時間。そのあと塩味を一片で確認します。一片を加熱して味を見て、まだ強ければさらに数時間、水を替えてください。資料には、牛乳で12時間という手順も、水で24〜48時間という手順もあり、魚の厚みで時間は変わります。
豆は豆は別鍋でゆでます。乾燥のファバビーンズ、白いんげん豆、ひよこ豆は、それぞれ戻してやわらかくゆで、レンズ豆は煮崩れない段階で火を止めます。缶詰の豆を使うなら、水洗いして水気を切るだけです。グリーンピースととうもろこしは、加熱しすぎないようにしておきます。
指でつぶせるけれど、中心にわずかな芯が残るくらいで豆を止めておくと、仕上げの大鍋でちょうどよいやわらかさになります。レンズ豆やグリーンピースを最初から煮込むとスープに溶けてしまうので、後半に回します。ゆで汁は豆ごとに分けておき、濁りが強すぎなければ、少量をスープの水分に使えます。
2. かぼちゃと米でスープの芯を作る

鍋にかぼちゃ250g、ズッキーニ150g、キャベツ80gと水250mlを入れ、ふたをして弱めの中火で15〜20分煮ます。竹串が中心まで通るまで、つまりかぼちゃの中心まで抵抗なく刺さったら、煮汁を残したまま火を止めてください。
かぼちゃとズッキーニの2/3、キャベツ、炊いた米80g、煮汁100mlをハンドブレンダーでなめらかにします。米でつなぐと、スープにほどよいとろみが出ます。残りの1/3はつぶし切らずに取っておき、完成したときにかぼちゃの小片が残るようにします。全量をペーストにしないことが、食べたときの楽しさになります。
スプーンから太い帯になって落ちるくらいが濃度の目安です。固ければ煮汁を大さじ1ずつ足します。水っぽいときは、残しておいたかぼちゃを加えてから攪拌し、薄めるためだけの水は入れません。キャベツの水分で味が薄くなりやすいので、この段階では塩を決めないでおきます。
3. アナトーの炒め床を作る

厚手の鍋に無塩バター25gを溶かし、玉ねぎ150gとにんにく2片を弱めの中火で5〜7分炒めます。玉ねぎが透き通って、鍋底にまだ水分が残っている状態で、アナトー小さじ1、クミン小さじ1、オレガノ小さじ1/2を加えます。
アナトーは辛味を足す香辛料ではありません。受け持つのは赤い色と穏やかな土の香りです。その赤色は油へ移すつもりで、30〜60秒だけ炒めます。粉が鍋底で黒くなる前に止めて、次の工程へ進んでください。
鍋が乾いてきたら、煮汁または水を大さじ1加えて温度を下げます。アナトーを入れてから強火にするのは禁物です。黒い粒や煙が出たときは、作り直したほうが苦味を持ち越さずにすみます。パプリカは色の代用にはなりますが、アナトーの香りと同じにはなりません。
4. 塩鱈を牛乳で火入れし、落花生の牛乳を作る(調理工程)

塩抜きした塩鱈は水気を拭き、牛乳250mlを入れた小鍋で弱火8〜10分、中心まで白くなるように静かに煮ます。取り出して粗くほぐし、魚の牛乳はこすようにして残してください。強く沸かすと魚が硬くなり、牛乳も分離しやすくなります。
無塩の炒り落花生50gと牛乳200mlをブレンダーにかけ、落花生はなめらかにします。粒が大きく残らないようにしてください。生クリーム50mlと残りの牛乳100mlは仕上げ用に分けておき、塩鱈とチーズの塩味を見ながら使う量を調整します。
5. 大鍋で合わせ、具を戻して濃度を決める

炒め床にかぼちゃのピューレと残したかぼちゃ、豆のゆで汁または水300ml、魚を煮た牛乳を加え、弱火で合わせて10分。続けてとうもろこし、ファバビーンズ、白いんげん豆、ひよこ豆、チョチョスを入れ、また弱火で10分煮ます。
最後にグリーンピース、レンズ豆、塩鱈、落花生と牛乳のソース、生クリームを加え、沸騰させないまま5〜8分。火を止める直前にチーズを溶かし込み、塩と黒こしょうで味を調えます。塩鱈とチーズがあるので、塩は最後に決めます。
完成の目安は、かぼちゃと牛乳の土台がなめらかに具へなじみ、木べらで鍋底をなぞったとき、木べらの跡2〜3秒ほど残り、スプーンの背を薄く覆う濃度です。
濃すぎるときは、牛乳か無塩の煮汁を50mlずつ足し、そのつど弱火で温めます。薄すぎるときは、ふたを外して弱火で5〜10分煮るか、残しておいたかぼちゃを少量つぶして加えます。強火で沸かして煮詰めると、豆が崩れ、牛乳と落花生が分離し、塩味だけが強く残ってしまいます。
6. 卵とプランテンを添えて仕上げる

卵2個は沸騰した湯で固ゆでにして半分に切ります。熟したプランテンは斜めに切り、フライパンを弱めの中火にかけ、少量の油で両面に焼き色がつくまで焼いて表面を香ばしくします。赤玉ねぎにはライム果汁と塩を少量まぶし、パセリまたは香菜、チーズ、青唐辛子も用意しておきます。
深い器にファネスカを注ぎ、卵とプランテン、玉ねぎ、チーズ、香草をのせます。酸味は別添えにして別皿に分けてもかまいません。各自が好みで足せば、添え物で一口ごとに変えることができ、濃いスープが最後まで楽しめます。
エクアドルの復活祭で、家族が殻をむく

資料をたどると、聖週間に家族が台所へ集まり、豆や穀類をむいたり煮たりする仕事を分け合う様子が繰り返し語られています。かつては穀類の皮をむく作業も家庭の共同作業で、その手間の多さが、この料理の社会的な意味にもつながっていました。ここで思い描きたいのは、誰か一人が短時間で作る鍋ではありません。前日から始まる準備があり、殻をむく時間も料理のうちで、一つの鍋に家族の手が集まる大鍋です。
では、この料理はどこから来たのでしょう。Asociación de Chefs del Ecuador と UDLA は、若い穀類や唐辛子を使うアンデスのウチュクタ(収穫の食)に、植民地期に入った乳製品や魚、炒め床の要素が重なったものとして説明しています。Mushuk Ninaや春分の農耕暦との結びつきも紹介されますが、現代の家庭がみな同じ儀礼を行っているわけではありません。そこにカトリックの聖週間が加わり、肉を控える時期に塩鱈と牛乳を使う、今のファネスカの形へ変わっていったという流れです。起源や名前の由来には複数の説があり、発祥地も、発明した人も、ひとつの年代も言い切ることはできません。
地域によっても、鍋の中身は違います。アンデスの材料として挙がるのは、とうもろこし、ファバビーンズ、チョチョス、メジョコス、かぼちゃ類です。沿岸部の変種では、アチョグチャやいんげんといった、アンデス側とは異なる野菜が加わるという説明もあります。つまり地域で具が変わるのは当たり前で、本場をひとつに決めるより、家庭ごとのファネスカがあると考えるほうが実情に近いのでしょう。移住先でも同じです。学術資料の視点では、入手できる豆や魚に置き換わりながら、料理は失われるのではなく家庭の食卓へ移植されていきます。置き換えても祝祭の構造は残るのです。
由来は「先住民の料理か、植民地の料理か」という二択では語られません。資料ごとに、アンデスの穀類やかぼちゃ、唐辛子に、植民地期の乳やチーズ、塩鱈、カトリックの暦が重なったと説明されています。UDLAは、起源や名前の細部が確定していないことも紹介しています。
途中で見つける、味の決め手
地域ごとに変わる材料を、台所で組み立てる

アンデス側では、ファバビーンズ、チョチョス、メジョコス、とうもろこし、かぼちゃ類が料理の輪郭を作ります。沿岸部にはアチョグチャやいんげんなどを加えるという説明もあり、同じファネスカという名前でも、具は一致しません。地域差は具の差であって、優劣ではないのです。乾燥豆を使うか生の若い豆を使うか、どんな魚を入れるか、何を添えるかも家庭によって変わります。家庭のレシピが基準で、その家の台所の数だけファネスカがあると言ってもいいでしょう。移住先ではその土地で手に入る豆へ置き換わりながら、移住先でも続く料理です。
日本の台所で組み立てるときは、残すものを先に思い浮かべてください。塩鱈のうま味、かぼちゃの甘み、牛乳と落花生の濃度、アナトーを使う炒め床、そして複数の豆・穀類。ここは最優先で残します。そのうえで、チョチョスは白いんげん豆に、サンボはズッキーニと追加のかぼちゃに、メジョコスは少量のじゃがいもに置き換えます。
塩鱈がなくて白身魚を使う場合は、塩気とうま味が弱くなります。魚を先に焼かず、最後に加えて、塩は別に調整してください。アナトーがないときのパプリカは、色を補う助けにとどまり、風味の代わりにはなりません。無理にターメリックへ置き換えると別の料理になってしまうので、避けておきます。
通販で探すなら、一般名で検索する順番はアナトー(アチョーテ)、ファバビーンズ(そら豆)、レンズ豆、プランテン(料理用バナナ)です。チョチョスとメジョコスは、数合わせのために別の商品へ置き換えず、材料表の代替で料理の役割を補ってください。普通の鍋や包丁、ハンドブレンダー、生鮮野菜は、わざわざ買いそろえるものではありません。
学術資料には、グアヤキルとスペイン・グラナダのエクアドル移民家庭を比べたものがあります。聖週間の料理が、移住先で材料も作り方も意味も変えながら続いていく様子が扱われています。その変化は「本場から外れた」ということではなく、手に入る食材と家族の記憶を一つの鍋へ合わせていく営みとして見ることができます。
盛り付けは、酸味と甘みを最後に足す

資料で確認できる添え物は、ゆで卵、揚げた熟したプランテン、チーズ、パセリまたは香菜、唐辛子、ライム漬けの玉ねぎです。小さな小麦の揚げ物やエンパナディータを添える食べ方もありますが、この4人分のレシピでは、任意の別皿とします。甘みを焼くプランテン、酸味は別皿にした赤玉ねぎ、チーズは少量ずつ。それぞれ別々に置いておくと、こっくり濃いスープも一杯食べ切りやすくなります。
提供するときは、熱いうちに器へ注ぎ、卵とプランテンを先にのせます。玉ねぎ、唐辛子、チーズ、香草は、そのあとで加えてください。辛さと塩気は各自で足せるようにしておけば、子どもや塩分を控えたい人に、鍋の味をそのまま押しつけずにすみます。一杯目は薄めずに濃度を確かめ、二杯目では牛乳か無塩の煮汁を少量足して、好みに寄せるのもいいでしょう。
保存と失敗の戻し方

魚と乳を使う濃いスープなので、作り置きするときは扱いに気をつけます。粗熱は短時間で取り、浅く小分けにして密閉容器で冷蔵します。室温に長く置かないでください。冷蔵は2日を目安に食べ切り、再加熱は食べる分だけ再加熱します。鍋で中心まで熱くしてください。
冷凍する場合は、添え物は別保存にします。豆の食感が変わり、乳が分離しやすくなることを承知のうえで、品質の目安は2週間程度です。再加熱で分離しても、強く沸騰させず、牛乳を少量加えて泡立て器でゆっくり戻します。
鍋ごと常温に置いたままにしないでください。冷ます時間を短くし、冷蔵庫の中で他の食品に汁がつかない容器を使います。酸っぱい匂いがする、糸を引く、容器がふくらんでいるときは食べないでください。保存日数は、冷蔵庫の温度や塩抜き、具材の状態で変わります。日数を安全の保証とは考えないでください。
塩辛くなった場合
塩鱈とチーズの塩味が重なって辛くなったら、無塩のかぼちゃピューレ、牛乳、豆のゆで汁を少量ずつ足して薄めます。水だけで一気に薄めると、かぼちゃと牛乳の濃度が崩れてしまいます。追加のチーズや塩、添え物の塩漬け玉ねぎはいったん止めて、味を確かめ直してください。
水っぽい、または分離した場合
水っぽいときは、ふたを外して弱火で5〜10分煮るか、かぼちゃと米のピューレを少量足します。乳と落花生が分離したときは、沸騰を止め、牛乳を少し足してから一杯分をブレンダーでなめらかにし、鍋へ戻します。豆が崩れてしまった場合は、追加の豆を入れずにスープの一部として受け入れ、残りの添え物で食感を補ってください。
よくある質問
Q1. ファネスカは12種類の穀類で作る料理ですか?
12という数は使徒の象徴と説明されます。Quito Turismo は12の材料とし、Primicias は8〜12種の穀類という幅を示しています。家庭や地域で種類が変わるので、この記事では8種の具を選びました。数を満たすことより、食感と役割を優先しています。
Q2. 塩鱈の塩抜きは12時間で足りますか?
Primicias には牛乳で12時間、Laylita には水で24〜48時間の手順があり、魚の厚みや塩分で変わります。この記事では、水を6〜8時間ごとに替える24時間を基本にしました。時間だけで決めずに、塩抜き後の一片を加熱して味を確かめ、追加で塩抜きするかどうかを見てください。
Q3. チョチョスやメジョコスが手に入りません。
チョチョスは白いんげん豆、メジョコスは小さく切ったじゃがいもで代用できます。代用品を使っても、塩鱈、かぼちゃ、牛乳と落花生、複数の豆・穀類という全体の構造は残してください。現地の材料と同じ味や食感になるわけではないので、完全な再現とは言えません。
Q4. 落花生や牛乳を使わずに作れますか?
落花生と牛乳は、濃度とコクの中心です。抜く場合は、白いんげん豆とかぼちゃのピューレを増やし、無塩の魚のだしで伸ばします。乳製品を豆乳に替えると、香りも分離の仕方も変わります。落花生アレルギーの方は、ピーナッツバターを含む代用品も避けてください。食事制限があるときは、風味の近さより安全を優先して、アレルギー表示を確認しましょう。
Q5. 翌日の方が濃くなりすぎました。
冷蔵している間に米や豆、かぼちゃが水分を吸うからです。牛乳か無塩の煮汁を50mlずつ足し、弱火で温めてください。再加熱してから塩味を確かめ、チーズや塩漬け玉ねぎを足します。強火で煮立てず、乳が分離する前に火を止めましょう。
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栄養情報(4人分のうち1人あたり)
この表の値は、塩鱈、豆・穀類、牛乳、落花生、チーズ、添え物を含めた4人分の分量から、編集部が設計した概算です。塩抜き後の塩分、豆の水分、チーズの種類、プランテンを焼く油によって変わります。健康効果や疾病予防の根拠としては使わず、食べる量と食材表示を優先してください。
| 栄養素 | 含有量 |
|---|---|
| エネルギー | 540 kcal |
| たんぱく質 | 29g |
| 脂質 | 22g |
| 炭水化物 | 54g |
| 食物繊維 | 11g |
| 食塩相当量 | 3.7g |
まとめ
ファネスカの中心にあるのは、聖週間の食卓と、家族で分担する下処理、そして地域ごとに変わる豆と穀類です。日本で作るときに仕上がりを分けるのは、塩抜きから始めること、豆を別ゆでにして豆の形を残すこと、かぼちゃと米で濃度を作ること、そして牛乳を沸かしすぎないことです。8種の具で作っても、12の伝承を否定することにはなりません。手に入る材料を持ち寄って一つの鍋にする、という料理の構造は残せるからです。卵やプランテン、玉ねぎ、チーズまで含めて、添え物まで一皿。前日の台所から器の上まで続く料理として、味わってみてください。







