マルタの村のfestaで、屋台の油から上がってきたひし形の菓子が紙の上に並びます。表面には小さな泡が立ち、黄金色に揚がった皮。割ると、濃い茶色のデーツ餡からふわりと湯気がのぼります。イムアレットを売る屋台は、そんな祭りの風景のひとつです。薄い生地と濃いデーツ餡の対比がこの菓子の魅力で、甘さの中心はデーツにあります。生地に入れる砂糖は大さじ1だけです。
Imqaretはマルタのデーツ入り菓子で、伝統的には揚げて作ります。家庭では焼く作り方もあります。小麦粉、バター、デーツがあれば作れて、オレンジフラワーウォーターは入れなくてもかまいませんが、入れると香りが変わります。難しいのは材料の多さではなく、水切りした餡を作ることと、5mm厚の生地で餡を封じる工程です。つまり餡の水分と生地の厚さが出来を左右します。12個できて、1人2個なら6人分。休ませる時間を含めて約1時間45分を見てください。
マルタの祭りと家庭に残る、ひし形の菓子
Imqaretは複数形で、単数形はmaqrutといいます。Maltese E-Newsletter 274(2019年6〜7月号、12ページ)は、このmaqrutをアラビア語のひし形に結びつけ、アラブ文化の影響が残る菓子として紹介しています。斜めに切ればひし形になるので、名前に残るひし形は台所でもすぐ確かめられます。ただ、同じ資料には長方形の作例もあり、四辺の整った形だけが正解とは言えません。いつ伝わったのか、誰が作り始めたのか、特定の征服者が持ち込んだのかといったことは、資料からは確かめられないので、ここでは触れません。
同じニュースレターによると、この菓子はレストランやカフェ、家庭、そして祭りの屋台で出会えるものです。クリスマスの時期に紅茶と楽しむ例も挙がっていますが、クリスマスだけの菓子ではありません。揚げたてを屋台で受け取る場面もあれば、家でお茶を入れて、その横に置く場面もある。祭りの屋台からお茶の時間へと、食べる場所は広がっています。
レシピには家庭ごとの違いもあります。地域ごとに決まった配合があるとは確認できていないので、マルタ島とゴゾ島の違いのように分けることはしません。確かめられたのは、作り手による違いです。柑橘の果汁や皮、アニスシードやアニスのリキュールを使う配合があり、シナモン、クローブ、花の水を使う配合もあります。政府サイトに掲載されたニュースレターには、アニス、柑橘、バニラを使う例がありました。現地の料理家Alison Cashaの焼き版は、小麦粉、マーガリン、オレンジ、デーツ、八角で作ります。すべての家庭が同じスパイスを使うわけではありません。
チュニジアのマクルードと見た目が似ていても、今回のイムアレットは小麦粉とバターの生地で作り、蜂蜜の蜜にはくぐらせません。セモリナ粉も必須の材料ではありません。生地と蜜の作り方が気になる方は、マクルードのレシピを見比べてみてください。ただし、両者が同じ料理だとも、片方がもう片方の直接の祖先だとも言えません。
途中で見つける、味の決め手
焼く日、香りを変える日
揚げる代わりに焼くこともできます。成形までは同じです。190℃に予熱したオーブンで、紙を敷いた天板に間隔を空けて並べ、約15分焼きます。表面が薄い黄金色になり、生地がさっくりしたら焼き上がりです。焼くなら190℃で約15分で、油800mlは使いません。揚げれば細かな気泡のある皮に、焼けばビスケットに近いさっくりした皮になります。焼き時間は家庭のオーブンで差が出るので、色が薄ければ2〜3分ずつ足してください。これも家庭向けの調整です。
オレンジの果汁や皮を使う、現地料理家の作例もあります。今回の餡に皮を足すなら、よく洗ったオレンジ1/2個分の色の付いた部分を、細かくすりおろします。これは家庭向けの案です。白い部分は苦味が出るので、深く削らないでください。花の水を省いたときも、柑橘の皮で香りを足せます。ただし花と果皮は別の香りです。果汁を餡に大量に加えると緩くなってしまうため、皮だけにとどめます。
アニスシードを使う現地の配合もあります。今回の餡を変える家庭向けの案は、クローブ小さじ1/4を抜き、軽く潰したアニスシード小さじ1/2を加えるやり方です。Alison Cashaの配合には八角を使う例もありますが、アニスシードと八角は、同量で置き換えられる材料としては扱いません。リキュールを使う配合もあります。ただ今回の材料には入らないので、ここでは酒を使わない香りの案を紹介しました。
| 変え方 | 分量・方法 | 変わる味と食感 |
|---|---|---|
| オーブンで焼く | 190℃、約15分 | 揚げた皮の気泡より、さっくりした焼き菓子の食感 |
| 花の水を省く | 生地は冷水125ml、餡は水0〜5ml | デーツとスパイスを中心に楽しめる |
| オレンジの皮を加える | 餡へ1/2個分の表皮 | 花の香りより果皮の爽やかな香りが前に出る |
| アニスを加える | クローブを抜き、潰したアニスシード小さじ1/2 | 甘いリコリス系の香り。現地作例を参考にした家庭向け案 |
| 甘い香りを控える | クローブを抜き、シナモンは小さじ1/4のまま | デーツの風味が分かりやすくなる家庭向け案 |
お茶の食卓と、残った分の扱い方
ニュースレターには、紅茶やアイスクリームと一緒に食べる例も載っています。揚げた菓子が少し冷めたら、甘みを付けない紅茶かコーヒーを添えて出してみてください。これは家庭向けの提案です。アイスを添えるなら、熱々の餡を安全に食べられる温度まで冷ましてからにしましょう。ソースや蜂蜜を重ねなくても、甘さの中心はデーツです。
デーツ餡を包んだ菓子をもっと作りたい方には、マアムールのレシピがあります。薄く包んで揚げる今回の菓子と、型で形を付ける菓子を並べて作ると、同じ餡の違う表情が見えてきます。どちらが古いか、どちらがより本場か、どちらが健康的かといった比べ方はしません。
作った当日は、食感を楽しみやすいときです。残った分は清潔な浅い容器に小分けし、長く室温に置かず、冷蔵庫へ入れてください。小分けして早く冷やすのが基本です。再加熱は、中心まで十分に、75℃以上を目安にします。イムアレット固有の保存試験は確認していないので、常温で何日、冷蔵で何日、冷凍で何か月といった安全な期間は保証できません。作り置きより、当日に食べ切れる個数を作ることを優先してください。
冷蔵した分は、冷たいまま出さず、160℃に予熱したオーブンで5〜10分を目安に温めます。中心温度が75℃以上になっているか、確かめてください。これは家庭向けの方法です。焦げそうな表面には、アルミホイルを緩くかぶせます。
時間をかければ温度に届くとは限りません。器具や食品の大きさで差が出ます。電子レンジだけで温めると、生地が柔らかくなりやすいです。怪しい臭いや変色があれば食べないでください。ただし、外見や臭いだけで安全を判定できるわけではありません。
よくある質問
デーツはレーズンで代用できますか?
この菓子の中心は、デーツのねっとりした餡です。レーズンは皮と酸味が違うため、同じ分量で同じ仕上がりになるとは言えません。デーツを主役にするつもりで、種なしの乾燥デーツを用意してください。
フードプロセッサーがなくても作れますか?
作れます。浸水後にスプーンで潰せるまで柔らかくして水切りし、包丁でごく細かく刻んで、スパイスと花の水を混ぜます。包丁を使う時間は5〜10分ほどが家庭向けの目安です。なめらかさは機械に及びませんが、餡が流れず塗れる状態を目指してください。
生地の合わせ目が開くのはなぜですか?
考えられる原因は、餡を端まで塗ったこと、餡の盛り過ぎ、生地が温まっていたことです。成形のときに5mmの余白を残し、開いた長辺は油に入れる前に押し直してください。長い合わせ目を閉じるのは、鍋に入れる前の仕事です。斜めに切った断面に餡が見えるのは正常です。油の中で、指や箸で無理に封じ直すことはしないでください。
辛いスパイスの菓子ですか?
唐辛子は使いません。シナモンとクローブは香り付けです。クローブの香りが苦手なら、抜いても作れます。これは家庭向けの案です。花の水も省けますが、香りの構成は変わります。
前日に用意するならどこまでですか?
前日から室温に置いておくことは、おすすめしません。今回の工程は、デーツの浸水と生地の冷蔵を、当日に並行して進める作りです。途中で中断するなら、冷蔵庫に入れてください。イムアレット固有の作り置き試験は確認していないので、日数の保証はできません。当日の仕込みを基本にしてください。
栄養の目安
1人分2個の概算は、518kcal、たんぱく質6g、脂質24g、炭水化物72g、食物繊維4g、ナトリウム102mgです。この数字は、No Frills Kitchenの焼き版1個(214kcal、たんぱく質3g、脂質7g、炭水化物36g、食物繊維2g、ナトリウム51mg)を2倍し、揚げ油の吸収を1人10gと仮定して90kcalと脂質10gを加えた、編集上の推計です。実測ではなく、吸油量の保証でもありません。吸油量を仮定した概算だと考えてください。
油温、揚げ時間、大きさによって、吸油量は変わります。焼く場合の同配合の参考値は、2個で428kcalですが、アレンジ後の栄養値は保証できません。打ち粉や代替材料でも差が出ます。表の1人分は2個として計算していることも、覚えておいてください。













